第百六十六話 敵中突破
1
「どうするアルベルト!?」
マックスが焦りからか、頬を引きつらせながらアルベルトに迫った。
だがアルベルトは突然の事態に頭が混乱し、額に脂汗を浮かべて呆然と立ち尽くしていた。
するとそこへサルコーが現れ、今自分が来た方角を指差しながら言った。
「こちらの方はだいぶ手薄なようだよ。どうだろうこちらの方へ逃げるというのは?このままここで囲まれるよりかは幾分ましだと思うのだがね?」
するとバランスが素早くそれに同意した。
「その案に賛成だ。包囲されればいずれは時間の問題となるだろう。無論、その間にガイウスが戻ってきてくれるかも知れんが、それは現時点では判らないことだ。それにあまり考えたくはないが、偵察に出てからだいぶ経つ。にもかかわらずいまだ戻らないというのはいかにもおかしい。なにかガイウスの身に不測の事態が起こったと考えるべきだろう。ならば、ガイウスをあてにしてここに踏みとどまるというのは危険すぎるとわたしは思うぞ」
バランスの長広舌に皆がうなずいた。
するとようやくアルベルトも冷静さを取り戻した。
「そうだな。確かにバランスの言う通りだ。ここにとどまるのは危険だ。よし皆、強行突破だ!」
アルベルトの決定に皆が声をそろえて同意した。
「では各クラスの二十人を、それぞれ二列縦隊で整列させてくれ。そしてその先頭にリーダーが、最後尾に補佐がつく。そして二列縦隊が四クラスで、計八列縦隊八十人が一斉に駆け出し、手薄な方角から脱出する。みんなそれでいいか?」
冷静さを完全に取り戻したアルベルトは、見事な差配を皆に示した。
するとそれに皆大きくうなずき、声をそろえて応じた。
「おう!」
そしてそれと同時に皆一斉に駆け出し、それぞれのクラスの元へと散って行ったのであった。
2
「一組準備完了!」
アルベルトの声が野っ原に響き渡った。
「二組もだ!いつでも出られるぞ!」
ジョディーが勢いよくがなり上げた。
「四組もいつでもかまわん!合図をくれ!」
バランスもまた、普段出さないような大声で叫んだ。
急な事ながら速やかに準備を終えた三クラスに対して、唯一補佐役のいない三組だけが若干手間取っていた。
「すまん!手間取ったがもう大丈夫だ!いつでもいけるぞ!」
マックスが大慌てでクラスの先頭を目指して全速力で駆けながら叫んだ。
「マックス!補佐役は!?」
「リドルに頼んだ。大人しい奴だけど落ち着いた奴だからきっと大丈夫だと思う」
言い終えるやマックスは先頭に到着した。
「よし。なら出発するぞ。いいか?一気に駆け抜けるからな?皆本当に準備はいいな?」
アルベルトの問いに皆口々に同意の言葉で応じた。
アルベルトはそれを聞き大きくうなずくと、タイミングを見計らって遂に号令を下した。
「よし!みんな走れー!!」
そしてアルベルトの号令一下、八十人あまりの集団が敵中突破を図るために一斉に草原を駆け出したのであった。




