第百六十三話 威嚇
「と、ともかくみんな、一旦散らばろう!」
アルベルトの号令一下、各クラスのリーダー及びその補佐役たちは、迫り来る魔獣に備えるために散開した。
「みんな気をつけろよ!こいつの尻尾、強力そうだ!」
マックスが皆へ向かって注意喚起した。
マックスの言う通り魔獣の尻尾はとても太くて長く、一撃必殺の威力を持っていそうであった。
「みんな、慌てずに囲い込もう」
アルベルトの指示に、彼らはゆっくりと遠巻きに魔獣を取り囲んだ。
「さてここからどうするかだが……」
アルベルトは魔獣を囲い込みこそしたものの、そこからのことまで考えていたわけではなかった。
するとバランスがいきなり横から魔獣に近づき、左手に持ったベルトを振るった。
ベルトは短さゆえに当たらなかったものの、魔獣はビクリと大きく反応し、威嚇にはなったようであった。
「こいつ、結構ビビリかも知れんぞ?」
バランスが魔獣の反応からそう言った。
「かも知れないが、気をつけてくれよ。いきなり近づくからびっくりしたぞ」
アルベルトが、不用意に近づいたバランスに注意をした。
しかしバランスはどこ吹く風でアルベルトの注意を無視し、皆に向かって言った。
「おいみんな。一斉にベルトを回せ。かなりの威嚇になるはずだ」
先ほどの魔獣の反応から、皆このバランスの指示に従い、次々にベルトを回し始めた。
アルベルトも渋々ながら皆にならい、ベルトを回した。
すると魔獣は明らかな戸惑いの様子を見せ、遅い動作ながら二本の首できょろきょろと辺りを見回した。
「後ろのやつは近づくなよ。尻尾はやはり危険そうだからな」
もはや完全にアルベルトから指揮権を奪い取った感のあるバランスが、魔獣の後方に位置する者たちへ指示を出した。
次いでバランスは、魔獣を挟んでちょうど反対側に位置するマックスに向かって言った。
「おいマックス。合図をしたら、先程わたしがしたように軽く踏み込んで威嚇してくれ。いいか、軽くだぞ。決して魔獣の射程圏内に入るなよ」
するとマックスは怪訝そうな顔で、バランスに問いただした。
「お前何する気だ?まさか突っ込むつもりじゃないだろうな?」
「いいからやれ。いいな、合図をしたら軽く踏み込むんだ。軽くだぞ」
「おいバランス、何をやるつもりなのかちゃんと言え。言わないならやらないぞ」
「うるさいぞ貴様。やれといったらやれ」
「何でお前にそんな命令されなきゃいけないんだ!」
するとアルベルトが大声で二人を怒鳴りつけた。
「やめろ!仲違いをしている場合か!」
するとバランスがうまくそれに同調した。
「アルベルトの言う通りだ。マックス、俺には考えがある。言う事を聞け」
マックスは不承不承ではあるものの、ついに承知をした。
「ちっ!わかったよ。やればいいんだろ!やれば!!」
「ああ、頼むぞ」
バランスは短くそう言うと、にやりと口角を上げて笑ったのであった。




