第千三百八十六話 配下の者
「……それはそれは……予想外の展開ですね?……」
あまりの出来事に口をあんぐりと開けて声を失っていたアジオが、ようやく立ち直って言った。
シェスターは肩をすくめながらうなずくと、周囲を鋭い眼差しで射るように見回しながら答えた。
「そうだな。実に驚くべき展開だ。そしてこれは、我らの居場所がカルビン卿に知られているということを意味している」
するとアジオがシェスターの言葉を引き継ぐように言った。
「つまり、我らはカルビン卿の配下によって見張られている……ということですね?」
「ああ。ほぼ間違いなく……な」
シェスターたちはホテルのロビーを、注意深く見回した。
だが時間がチェックアウトの時間であった為かロビーはかなり混雑しており、誰がその配下の者なのかはまったく判別がつかなかった。
「……人が多すぎますね?……」
アジオが舌打ちをしてから、ささやくように言った。
だがシェスターはそれに応えるでもなく、辺りをさらに注意深く見回し続けた。
そして、大きな柱にもたれかかり、新聞を読んでいる身なりの良い男に、目を止めたのであった。
アジオはその視線に気付き、シェスターに顔を近づけ、小声で問いかけた。
「……もしかしてあの男ですか?」
シェスターはうなずき、断言した。
「ああ、間違いない。あの男だ」
「何であの男だと思われるんですか?」
「まず、あの男の背後には裏口がある。あれはいざという時にすぐ逃げられるようにという配慮からだろう。それにあの男、先程からまったく新聞をめくっていないのだ。時間的にいくらなんでも今開いているページは読み切っているはずだが、一向にめくる気配がないのだ。それに、あの男の視線、一向に動いていない。本来ならば上から下へと上下運動を繰り返すはずだ。だがあの男にはそれがない。おかしいとは思わないか?」
するとアジオがさりげなく視線をその男に移し、しばらくの間観察した後、言った。
「なるほど。確かに視線が動いていませんね。これはどうやら間違いなさそうですね?」
「ああ、だが一人だけというのは考えにくい。おそらくもう数人いるはずだが……」
「見当たりませんか?」
「そうだな。今のところは判らんな……」
すると突然、コメットが小声で何事かを呟いた。
シェスターは、コメットが何事かを言うとはまったく思っていなかった為かなり驚き、彼の発言を聞き逃してしまった。
そのためシェスターは、あらためてコメットに対して問うたのであった。
「すまん、コメット。今なんと言ったかな?」
するとコメットが、シェスターに聞き返されたことを特に気にするでもなく、ただひたすらホテルの玄関の先を見つめつつ、驚くべきことを再度呟いたのだった。
「……あそこにいるのって……もしかして、例の白いドレスの女なんじゃないでしょうか?……」




