第千三百六十八話 可能性を潰す
1
「もしくは魔法で飛んだか……」
シェスターが小声で呟くと、アジオが溜息を吐いた。
「それだとお手上げですね。どうします?」
シェスターはしばし考え込んだ後、言った。
「アジオ、飛行魔法は使えるかね?」
アジオは大きくかぶりを振った。
「使えるわけがないじゃないですか、飛行魔法なんて上級魔法を……」
シェスターが苦笑を浮かべながら言った。
「俺もだ。ならば仕方がない。もう一度戻って登れそうなところを探してみることとしよう」
アジオも仕方なく苦笑を浮かべた。
「そうですね。それ以外なさそうですね」
二人は踵を返し、来た道を戻っていったのであった。
2
「……ここ……頑張れば登れそうな気が……」
アジオが他と比べて多少緩やかな崖を見上げて呟いた。
だがシェスターは、アジオの意見にあまり乗り気になれなかった。
「……どうだろうか。確かに他と比べれば比較的緩やかではあるが、ドレスの女性と酔っているようなコメットたちが登れるとは思えないのだが……」
するとアジオが改めて崖を見上げて、シェスターの意見に同意した。
「……ですね。ではもう少し先へ行ってみましょう」
二人は改めて歩き出した。
だが何処まで行っても先程よりも傾斜が緩やかな崖など見当たらなかった。
そうこうする内に、バンドルの町まで戻ってきてしまった。
「……だめですね。脇道なんてないですよ……」
アジオが疲れた様子で呟いた。
シェスターも同様に若干疲れを見せ始めていた。
「そのようだ。となるとやはり飛行魔法で飛んだか……」
「そうなりますね……となるとこりゃあお手上げですね?」
アジオが大きく両手を開いておどけるように肩をすくめた。
するとシェスターが、ふと何かに気付いたような表情となった。
「いや、待てよ……他にもう一つ可能性があるな……」
「なんです?」
アジオの問いに、シェスターが難しい顔で答えた。
「先程、この道を行ったと教えてくれた男性が、嘘を言っている場合さ」
アジオは驚き、シェスターの顔をマジマジと見た。
「……本気ですか?」
シェスターは真顔でうなずいた。
「ああ、可能性はあるだろう」
アジオは眉根を寄せて首を傾げた。
「まあ、そりゃあ可能性はあるでしょうけど……」
「ならばその可能性も潰しておきたい」
アジオは不承不承うなずいた。
「まあ、他にやれることもないですしね……わかりました。さっきの男性を探してみましょう」
二人は、改めてバンドルの町で探索を始めるのであった。




