第千三百四十四話 不調法
「……敵ではない……か……」
アウグロスが噛みしめるように言った。
カルラは能面の様に表情を消して尋ねた。
「ルキフェルに対して、色々と思うところがあるようだが?」
アウグロスはしばし無言でカルラの目を見据えていたものの、フッと軽く苦笑を漏らすと、重い口を開きだした。
「そうだな。色々と……そう、色々とあるのは間違いないな」
「それを教えてもらうわけには?」
アウグロスは首をゆっくりと横に振った。
「あまり愉快な話ではないのでな……それよりも……何故敵ではないと思ったのだ?わたしが答えていないのに、聞くのは不調法だとは判っているが……」
カルラは首を横に振った。
「いや、構わない。だが……うまく説明出来ることではないな……」
「そうか、ではやはりそれは、あくまで勘の様なものなのだな?」
カルラはうなずき、答えた。
「そうだな。あくまで確証があるわけではない」
「そうか、では聞いても無駄だな?」
「お互いにな」
カルラがニヤリと笑いながら言うと、アウグロスも口角をクイッと上げた。
「そうだな。では、他に聞きたいことはあるか?」
「そうだな。先程の話しに戻るが、わたしはあちらの世界について聞きたいことがあるのだが、貴方以外でまともに話しが出来そうな者は、ガイウスの中にいるかな?」
アウグロスはしばし考えた後、うなずいた。
「……いるな。中々に知識がありそうな者が一人」
「その者を呼び出せるか?」
アウグロスは首を横に振った。
「いや、わたしはこの肉体の現在の支配者ではないのでな」
「そうか、ではガイウスに呼び出させなければなるまいな。その者の名は?」
カルラの問いにアウグロスは即答した。
「ジーラ」
「ジーラ?女性なのか?」
「そのようだ」
「ふむ……転生とは、性別も変わることがあるのか……よし、わかった。ありがとう」
「いや、構わない。またいつでも呼び出してくれたまえ」
アウグロスはそう言うと、静かに笑みを浮かべて目を閉じた。
すると、しばらくしていつもの陽気な声が聞こえてきた。
「……おっと、なんかいきなり戻ったな」
ガイウスはそう言うと、カルラの顔を覗き込んだ。
カルラは、アウグロスとのあまりの違いに軽く溜息を吐いた。
「……まあいい。ガイウス、ジーラを呼び出してくれ。中で見ていたのだろう?」
カルラの問いに、ガイウスが肩をすくめてうなずいた。
「まあね。ただそれにしても女性がいるとは思わなかったね……ていうか、初めての人でも呼び出せる者なのかな?」
ガイウスはそう言うと、肩をすくめてカルラの顔を覗き込んだのであった。




