第千三百四十一話 ルシファー
「……だけど、何だ?」
言い淀むガイウスに対し、カルラが答えを急かせた。
ガイウスは首肯し、答えた。
「ああ、実は名前が似ている者もいれば、まったく同じ者もいるんだよ」
「……似ているだけと、同じとがか……」
「そうなんだ。同じならいいんだけど、なんとなく似ている名前っていうのは、何故なんだろうと思ってね」
カルラは右手を顎の下に当てて考えた。
「……もしも転生者がそれぞれの世界に行き来することで名前をつけるのならば、まったく同じ名前を付ければ良い。にもかかわらず似ている名前というのは……不思議だな?」
「そうだろ?なぜ同じにしなかったのか……それとも偶然似た名前になっただけかな?」
「その……まったく同じ名前というのは、例えば何だ?」
カルラの問いに、ガイウスが即答した。
「サタンだよ。あっちの世界でも地獄の悪魔王なんだ。それにアスタロトも。地獄の大公爵だね」
「そうなのか……では似ている名前は?」
カルラの問いに、ガイウスが今度は少しばかり言い淀んだ。
「……う~ん……ルキフェルだね……」
カルラは軽く驚き、問い返した。
「……ルキフェルが……あちらの世界では何というのだ?」
ガイウスはうなずき、答えた。
「……たぶんだけど……ルシファーじゃないかと思うんだ……」
「ルシファー……それはルキフェルと同じ様な神なのか?」
ガイウスは大きく首を横に振った。
「だいぶ違うね。ルシファーは神じゃない……ああ、いや……」
またも言い淀むガイウスに、カルラがすぐさま問いかけた。
「何だ?神じゃないのか?ならば何なのだ?」
ガイウスはようやく考えをまとめたのか、ゆっくりとした口調でもって答え始めた。
「……うん、神じゃないんだけど……天使なんだよ。いや、それも天使だったものだ」
だがカルラには天使の意味が判らなかった。
「……それはなんだ?」
「ああ、そうか。どうやらこっちの世界には天使って存在がないみたいだね」
ガイウスはこちらの世界の記憶を辿り、そう言った。
「天使ってのはさ、天にいる神の使いなんだ。だから天使ってわけ。で、ルシファーはその天使の中の最上位の天使だったんだけど……確か……神に逆らったかなんかで天国を追放されるんだよ」
「ほう、追放とな。で、何処へ行ったのだ?」
ガイウスは肩をすくめながら答えた。
「地獄だよ。地獄へ落ちたんだ。故に堕天使と呼ばれている」
ガイウスはそう言うと、再びあちらの世界の記憶を辿るために、遠い目をした。
「そして……ルシファーは……」
ガイウスはそこで一旦言葉を区切ると、鋭い目付きとなって言ったのだった。
「……悪魔王サタンになるんだよ……」




