第千三百五話 協力
「なに、大したことではない。ただ……我に力を貸して欲しいのだ。特異点よ」
サタンの声音にはひどく真剣な色味が混じっているようにガイウスには感じ取れた。
「……ふ~ん、力をね……それはいいけど、具体的にはどうすればいいのかな?」
ガイウスの当然とも言える問いに、サタンが少しばかり間を置いて答えた。
「……そうだな。正確にどうして欲しいといえるものはないな」
「なにそれ?どういうこと?」
ガイウスが少々呆れ気味に問いかけた。」
サタンは苦笑交じりに答えた。
「我はただ、ここを出たいのだ。故にそのために特異点の力を借りたい」
「……ああ、まあそうだろうね。でもそれは判ったけど、具体的にはどうすればいいのかが判らないんだけど?」
ガイウスが困惑気味に問うと、サタンはまたも苦笑を漏らしつつ答えたのだった。
「具体的なことはわからぬ。ただ、我をここから解き放つ者がお前であることだけはわかるのだ」
「……またそれか……う~ん、本当に判っているの?」
ガイウスが、かなり胡散臭けなものを見るような視線をサタンへと送った。
サタンはそれを受けて、これ以上無いくらいの苦笑を漏らした。
「そう言うな。我は適当に言っているわけではない。真実我には見えるのだ。お前が我をこの永久凍土の地より解き放つ姿をな」
だがガイウスはいまだ懐疑的であった。
「……本当に本当なの~?どうにも信じられないんだけどな~」
と、そこでサタンがガイウスが納得するようなことを言った。
「特異点よ。別段我がこの地より飛び立とうが、飛び立つまいが、お前にとってはどうでもよいことではないか?我はただ、時が来たらば、その時はお前の力を貸してほしいと言っているだけだ。成功したらばとは言っていないのだぞ?」
これにはガイウスも納得せざるを得なかった。
「ああ、なるほどね。その時が来たら協力すればいいと……その約束さえすれば、今すぐに別の防御魔法を教えるというわけね?」
「そういうことだ。お前には特にデメリットはあるまい?」
ガイウスは腕を組んでしばらくの間考え込んだ。
「……う~ん、まあ確かに……でもなあ……いずれであろうが、なんであろうが、あんたをここから解き放つのはな~……だってあんた悪魔王じゃん。地上の人間からすれば恐怖の根源じゃん。そんなあんたを解き放つっていうのは……」
だがそんなガイウスの長広舌を、サタンの哄笑が制した。
「何を言っているのだ特異点よ。我が解き放たれるのは、この永久凍土からであって、別段地上に上がるとは一言も言っていないぞ。そもそも我も高位の悪魔である以上、神によるガードによって地上には出られぬのだからな……」




