第千三百三話 未来を見通す
「故にあまりその鎧には頼らぬ方がよかろう。そうでなければいずれ、お前は痛い目に会うであろうよ」
ガイウスは、サタンの忠告を小刻みにうなずきながら心に刻んだ。
だが、いつものように軽口を叩くことは止めなかった。
「でもさあ、ルキフェルと戦わなければ、その時は来ないわけじゃん。だったらもうルキフェルとは戦わないと決め込んで、他の戦いでバンバン使えばいいってことだよね?」
ガイウスが眉根を上げ、首をクイッと傾けながらキメ顔で言った。
サタンは相変わらずの愉快そうな思念を送りつつ、ガイウスに応じた。
「いや、それは無理であろうな。お前はいずれ何処かで必ずルキフェルと戦うであろう。それは、お前にとって避けられない宿命なのだからな……」
「宿命?そんなこと、あんたに判るの?」
懐疑的な顔をしているガイウスの問いに、サタンはまたも呵々大笑した。
「判るとも。我は悪魔王ぞ。人の子の宿命くらい、手に取るように判るというものよ……」
「ふ~ん、本当かね~?」
「ほう、信用しないか?」
サタンに問われ、ガイウスは口をへの字に曲げて考え込んだ。
「う~ん、信用しないわけじゃないんだけどね~」
「ではなんだ?」
サタンの、会話を楽しむような問いに、ガイウスも笑顔で応じた。
「いや、いくら悪魔王だからといって、未来を見通せるなんてことが出来るのかと思ってね?」
そう言うと、ガイウスがいたずらっぽくウインクした。
だがサタンは予想に反し、至極真剣な声音でもって答えたのだった。
「なるほど……お前が言いたいのは、占い師だの、予知者だのという怪しげな連中がのたまう未来のことであるな?」
ガイウスは目を大きく張って驚いた。
「おお、そうそう。ああいう連中の言う未来と、あんたの見える宿命ってのは別物なのかな?」
「当然だ。あの連中の言う未来など、ただの当てずっぽうではないか。我の言うものとは違うに決まっているだろう」
サタンが、あの連中と切って捨てる者たちを、小馬鹿にするように吐き捨てた。
「まあ、そうなんだろうけど……実際に見えるの?」
「事細かに見える訳ではない。だが大筋は見える……と言ったところであろうか……」
そこでガイウスが考え込んだ。
「大筋ね……で、いずれ必ず俺とルキフェルが戦うと?」
サタンは間髪を入れずに答えた。
「そうだ」
「ふ~ん……」
ガイウスは軽く呻くように言うと、再び考え込んだ。
「……で、その時、あんたはどうしているの?」
ガイウスは、ニヤリと口角を上げながら、サタンへと切り込んだのであった。




