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第千三百話 巨大な害悪

「……ルキフェルか……」


 ガイウスが少々ウンザリした顔を見せた。


 その表情には色々な負の感情がない交ぜになっているようでもあり、足下のカルラは少し不安な気持ちになるのであった。


「……ガイウス……よほど苦手か……」


 カルラが、肺腑の空気を全て絞り出すような溜息と共に呟いた。


 デルキアは驚き、不思議そうな顔をしてカルラの顔色を窺った。


「うん?どうした?カルラ。やけに心配そうな顔をしているではないか?」


 カルラはデルキアの顔をマジマジと見やり、軽くうなずいたのだった。


「ああ……どうもあのルキフェルという男、ガイウスにとって巨大な害悪と思えてならん……それで……な……」


 カルラは、先程初めて出会ったばかりのルキフェルの顔を頭の中に思い起こしていた。


 その表情は一見すると柔和であったが、よく見れば如何様にも受け取れる複雑怪奇な表情であったと、今のカルラには思えたのだった。


 だが対するデルキアは、カルラの複雑な心境など関係なく、直情径行な性格そのままに言い捨てたのだった。


「そりゃ当然だっ!あいつが巨大な害悪でないはずがないからな!」


 デルキアのただ自分の感情にまかせただけの肯定に、カルラが苦笑を漏らした。


 だがもう一人のカリンは、苦笑するだけでは済まさなかった。


「あのねえ、デルキア。カルラはあんたと違って、もっと深い意味で言っているのよ?」


 カリンの、いつもの溜息混じりに吐き捨てるような物言いに、当然のようにデルキアが勢い込んで反駁した。


「何だと!?一々うるさいんだよお前は!わたしと違って深い意味とはなんだ!まるでわたしの考えが浅いみたいじゃないか!」


 カリンは半目となって口を大きく開けて、これ以上無いほどに呆れ果てた表情となったのであった。


「……あんた、自分の考えが浅い自覚もなかったのね……」


「何だと!?何でわたしの考えが浅いんだ!?」


「……全てに決まっているでしょ?」


「何~?全てだと!?どういうことだっ!」


「どうもこうもないわよ。全てって言ったら全てよ!」


「それじゃわからんだろう!?具体的に言ってみろ!具体的に!」


「だから全部だって言っているでしょ!あんたって本当に面倒くさいわね!」


「何だと!?」


「何よ?」


 デルキア、カリンのいつも通りの定期公演に、カルラは軽く肩をすくめた。


 そしてやおら上空を見上げると、厳しい表情でもってサタンを睨み付けるガイウスの姿があった。


「……ガイウス……」


 カルラは、自らを覆う最強の鎧が自分の力で生み出された物でないことをサタンに指摘され、強く動揺する愛弟子の姿を眺めて、深く嘆息するのであった。

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