第千二百九十二話 納得のうなずき
なおも不思議そうな表情をしているデルキアの問いに、カリンが困惑の色を濃くして言ったのだった。
「……だから気がするってだけで、何処がって言われてもわかんないわよ……」
するとデルキアがクルッと首を巡らしてカリンを睨み付けた。
「何だそれは!それじゃあ、わたしがわかんないじゃないかよ!」
「うるさいわね!今探しているところなんだから、静かに待っていなさいよ!どうせあんたみたいな鈍感が探したってわかんないんだし!」
「何だと!わたしの何処が鈍感だって言うんだ!」
「だってあんた、ガイウスの変化にちっとも気付いてないじゃない!」
「何がガイウスの変化だ!どこが変化したのか全然言えないくせにっ!」
「そう言うけど、カルラも気付いているのよ!気付いていないのはあんただけよ!」
「何だと!よし、わかった!カルラ!本当に変化したのか!?したのだったら何処が変化したのか言ってみろ!」
とばっちりが飛んできた格好のカルラであったが、特別嫌な顔をするでもなく、難しい表情でガイウスをジッと凝視し続けながら答えた。
「……おそらくだが……ガイウスの防御魔法が強くなっているんだと思う……」
「そうなのか!?」
デルキアが反射的に問うた。
すると傍らのカリンが得意げな表情となって言った。
「やっぱりね。そうじゃないかと思ったのよ」
すると、もはや神がかり的な速度でもってデルキアが噛みついたのだった。
「嘘吐け!!」
すると、これまた神速の域でカリンが反論したのだった。
「嘘じゃないわ!!わたしはわかってたわよ!」
「嘘だ!!」
「嘘じゃない!!」
するとここでカルラが、この二人のやり取りに大分慣れたのか、いつもよりも早めに、するりと間に割って入った。
「まあ待て二人とも。ほら、よく見てみろ」
カルラはそう言ってガイウスを指し示した。
「防御魔法のなれの果てが、先程よりも幾分大きいようだ」
デルキアとカリンは喧嘩を止めて、前のめりとなって覗き込んだ。
「う~ん、どれどれ……ああ、砕けた魔法の残骸か……ああ、確かにさっきはもっと小さく粉々になっていたな……」
デルキアが傍らのカリンに水を向けると、カリンは大きくうなずいた。
「そうね。確かにさっきは正に粉のように粉砕されていたけど、今は細かい粒が見えるわね」
「ああ、つまり多少ではあるが、強くなったということだろう」
カルラが引き取って結論づけた。
すると二人は納得の表情となって、何度も同じ拍子でもってうなずいたのだった。
この様子を見たカルラは、おかしみからか笑みを浮かべて、フッと一つ吐息を漏らしつつ言った。
「だからサタンも楽しんでいるということだろうな」
すると再び二人が、まったく同じ拍子でもって仲良く何度もうなずいたのだった。
その様子を再び見たカルラは、本当はこの二人は息が合っていると思うものの、それを言ったところで強めの反駁を食らうだけだと思い至り、グッと言葉を飲み込むのであった。




