第千二百七十六話 弱点
するとルキフェルが、困ったように両手を広げて肩をすくめた。
「別にどうしようというのはないさ。ただ君の今後を考えれば、アウグロスの智慧は君にとって有意義であろうかと思ってね」
するとガイウスが、胡散臭いものを見るような目付きでルキフェルを睨みつつ言った。
「へえ~それはどうもご親切に……」
ガイウスが心にもないことを言ったものの、ルキフェルはまったく気にも止めない様子であった。
「ところで、だいぶ長い間サタンをほったらかしにしてしまった。すまないな、サタンよ」
これまた心にもない様子でルキフェルが言うと、サタンも感情のまったく籠もっていない声音で言ったのだった。
「構わない。中々に面白い会話であったのでな」
「ああ、本当にね。原初皇帝アウグロスとガイウスとの、新旧特異点による会話だからね。わたしも興味がそそられたよ」
するとサタンが意外なことを口にした。
「ほう……ではアウグロスも特異点だったのか?」
サタンの探るような問いかけに、ルキフェルが当然だろうと言わんばかりの笑みを浮かべて答えた。
「そうだよ。何か気にかかるかね?」
するとサタンがしばらくの間考え込んだ。
「……そうだな。わたしは特異点を認識出来ないと思っていたが……それは思い違いだったのかな?」
このサタンの問いかけに、ルキフェルがニヤリと笑った。
「何故そう思うのかね?」
「今、アウグロスが話していた間だけ、認識出来たからだ」
すると間髪入れずにルキフェルが言った。
「それはおそらく、アウグロスは過去の特異点であって、今現在は特異点ではないからだろうね」
「……ふむ、つまりアウグロスが表に出ている間は、ガイウスの特異点の能力は失われるというわけだな?」
このサタンの考察に、皆が一斉に驚いた。
特に驚いたのは、またしてもカルラであった。
「そうか!肉体は同じでありながらも、アウグロスが現出している時にはその性質が失われるというのは、普通に考えればおかしいことだ。だが実際にはサタンが、アウグロス現出のその間だけ認識出来るということは……そういうことになるな……」
するとサタンが笑い声を混じらせながら言ったのだった。
「面白い。実に面白いな。ルキフェル、やはりお前は人が悪い……」
するとこれに再びカルラが反応した。
「つまりこれは……ガイウスのためだといいながら、実のところは……ガイウスの何らかの弱点を作ったということではないか?どうなんだ?ルキフェル!」
カルラの鋭い問い詰めに、ルキフェルの切れ長の目が、静かに恐ろしげに据わったのだった。
「……さて……考え方はそれぞれの自由だよ」




