第千二百六十九話 慎重なサタン
すると、愉快そうだったサタンの思念がガラッと変わった。
「……ほう、やはりあの時アスタロトと話していたのはガイウス、お前だったのか……」
ガイウスは眉根を寄せ、いぶかしんだ。
「……どういう意味?」
不思議そうに問うガイウスに、サタンが重々しく答えた。
「何故かは判らぬが、我は特異点を認識することが出来ないようなのだ……」
これにはガイウスも大いに驚いた。
「そんなことってあるの?認識出来ないって……見ることが出来ないってこと?」
「そうだ。故に今もな……」
「今も!?俺の姿が見えないってこと!?」
「そうだ。声のする方向で大体の場所は判るがな……お前の姿は、我には今も見えぬのだ……」
するとガイウスがはたと気付いた。
「……だったらその段階で俺が特異点であることに間違いないじゃん……」
するとまたもサタンの思念が愉快そうなものへと変わった。
「そうだな。ほぼ確信はしていた。だが我は慎重なのでな……念には念をというわけだ」
するとガイウスの顔がにやけた感じへと変わった。
「本当かなあ~?何か変なさぐりを入れたんじゃないのかなあ~?」
「ほう、そうだとして何か問題でもあるのかね?」
「いや別にないけどさあ~、サタンもさぐりを入れたりするんだね~?」
するとサタンの大音声での笑い声が鳴り響いた。
「面白い奴だ。気に入ったぞ」
するとガイウスがおどけた。
「あっ、そう?まあ気に入られるのは悪い気はしないね。ところで、気に入らなかったらどうしてたの?」
するとサタンが間髪を入れずに言った。
「決まっている。この世から消し去っていたであろうな」
予想通りの返答に、ガイウスがブルッと身体を震わせた。
「おお怖わっ!やっぱりそうだったのか……良かったあ~……」
そこでガイウスがはたと思い起こした。
「あっ、そうだ。で、アスタロトなんだけど……」
するとサタンが、ガイウスが言い終えるのを待たずに言った。
「それは無理な話だ」
「いや、まだ言ってないけど?」
「アスタロトを復活させろと言いたいのであろう?だがそれは無理だ」
「えっ!?マジで!?」
ガイウスが思わず反射的に言った。
するとそれとほぼ同じタイミングで、それまで沈黙を守っていたカリンが叫んだ。
「何でよっ!?」
カリンの叫びはサタンに届いた。
「我が関知していることではないからだ」
カリンは驚き、速射砲のようにサタンを問い詰めるのだった。
「どういうことよ!やったのはサタン、あんたでしょ!?だったらあんたにはアスタロト様を治せるはずじゃない!そうでしょ?だからとっとと治しなさいよ!さあ早く!!」




