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第千二百六十六話 呼び掛け

「……じゃあ、まあ、やってみるよ……」


 ガイウスは仕方なさそうに呟くと、服をたなびかせてフワッと浮き上がった。


 そして急上昇してサタンの顔の目の前まで来ると、ピタッと静かに止まった。


 ガイウスはそこで不安そうな顔をして、下にいるカルラたちに視線を送ったものの、何らの反応もしてもらえなかったため、仕方なく恐ろしげな表情のサタンと向き直った。


「……ふう……仕方ない……じゃあやるとするか……」


 ガイウスはようやくここで覚悟を決めると、一つ大きく深呼吸した。


 そして珍しく真剣そのものといった表情となって、ついにサタンに対して呼び掛けようとするのであった。


「……え~と~……どうも……」


 ガイウスはとりあえずは挨拶とばかりに言ったものの、下で見守る三人からすれば、呆れ果てるような言い草だったため、その中でも短気で鳴るデルキアが案の定といった感じでブチ切れた。


「馬鹿かお前は!!もっとシャキッとしろ!シャキッと!」


 デルキアの怒号にガイウスがビクッと大きく反応した。


 ガイウスは恐怖におののく表情を見せるも、すぐに今の怒号が足下のデルキアのものだと判ると、軽く安堵の溜息を吐き、面倒くさそうな顔をしてデルキアに向かって語り掛けたのだった。


「あのさあ、まずは挨拶しといた方がいいじゃない。呼び掛けは順にするからさあ~」


 すると足下から雷鳴の如きデルキアの激が飛んできた。


「もどかしいんだよお前は!!いいからさっさとサタンを起こせー!」

 

 ガイウスは頬を軽く引き攣らせると、ぶつくさとデルキアに聞こえないような小声でもって文句を呟いた。


「……まったく、だいたい呼び掛けるって言われたって、よくわかんないんだよ……だいたい俺はサタンとは面識ないしさ~……まずは挨拶って思うだろうよ普通……そもそもデルキアには常識ってもんがないんだよ、常識ってもんがさ……」


 するとまたも足下からデルキアの怒号が鳴り響いた。


「お前いい加減にしろ!早くしろって言ってんだろーー!いつまでもモタモタしてると、ぶっ殺すぞーーー!!」


 ガイウスは天を仰ぎ、かなりイラッとした表情を見せるも、これ以上時間をかけると今度は怒号ではなく攻撃魔法が飛んでくるだろうことが容易に予測できたため、仕方なくサタンへの呼びかけを再開するのであった。


「お~い!サターン!起きてくれーー!」


 ガイウスは巨大なサタンの眉間辺りに向かって、かなりの大音声でもって呼ばわった。


 だがその後、辺りを凍えるような沈黙が覆ったため、ガイウスはその沈黙に耐えきれなくなり、再度大声で呼び掛けるのであった。


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