第千二百五十四話 へこへこと
「では出発するとしよう」
カルラの合図で、一行は再び、悪魔王サタンの元へと向かうこととなった。
するとしばらくしてガイウスが、いつも通りの女々しい愚痴をブチブチと呟きはじめた。
「……まったく……本当に死んだらどうするんだよ……それに殺されなかったとしても、サタンが俺を捕まえるつもりだったらどうするんだよ……サタンは特異点の俺に興味があるんだろ?……だったら危険じゃないかよ……にもかかわらず出発するなんて……ああ、そうそう、それに俺のポテンシャルが引き出されるかもしれないとか言うけどさ、死んじゃったら終わりなんだぜ?なのに何考えてんだよ……それにさ」
いつまでもとどまることを知らないガイウスの愚痴に、聞いていたデルキアがブチ切れた。
「うるっさい!!お前いつまでグチグチと文句を垂れているんだ!いい加減にしろ!」
すると傍らのカリンも、激高するデルキアに同調した。
「本当よね。なんなら今ここで殺してやろうかしら?」
物騒な物言いのカリンに対し、ガイウスが震え上がった。
「……いやいやいやいや、そんないきなり殺すとか……ごめんなさい……」
素直に謝るガイウスに、カリンが冷たい眼差しを送りながら告げた。
「あら、殊勝な物言いね。ならまあいいわ。今回だけは許してあげる。でも次はないわよ?わかっているわね?」
するとデルキアがカリンに乗っかるようにして言った。
「そうだそうだ。次はないからな?わかってるな?」
ガイウスは申し訳なさそうな表情を作って首を上下させ、へこへことしながら再び謝ったのだった。
「はい。わかってます。ごめんなさい」
するとカリンが鼻でせせら笑った。
「ふん、明らかに演技ね。全然心がこもっていないわ」
するとデルキアが、カリンの言葉にえっという驚きの表情を浮かべた。
「……そ、そうだよな?……うん。こいつは今演技をしたな。うん。間違いない」
するとそんなデルキアに対してカリンが侮蔑の眼差しを送りつつ言った。
「いえ、デルキア貴方、絶対にわかってなかったでしょ?こいつの演技を真に受けていたでしょ?」
するとデルキアが目を大きく見張りながら抗議の声を上げた。
「な、何を言うか!わかってたって!百パーセント判りきっていたって!」
必死に抗弁するデルキアに対し、カリンは冷め切った表情であった。
「あ、そう。じゃあそれでいいわ」
カリンは面倒くさくなったのか、簡単に切り上げた。
そしてクルッと身体の向きを変えてガイウスに向き直ると、首を下げ、上目遣いの恐ろしげな表情でもって睨み付けたのだった。
「あんたねえ、そろそろ本気で心を入れ替えないと……知らないわよ?」




