第千二百四十九話 虚空を眺める
「ほう……それは興味深いな……」
カルラが顎に手をやり、長いまつげが覆い被さるように伏し目がちにガイウスを眺めた。
ガイウスは静かにうなずくも、間髪を入れずに首を左右に振った。
「いや、さっきもいったけど、完全に思考が読めたわけではないよ?軽く流入したってくらいなんだから……」
ガイウスが勘違いしないでくれよといわんばかりに言った。
するとカルラが口の端に笑みを浮かべて、ガイウスを安心させるようにうなずいた。
「ああ、わかっている。それで……そのわずかに流入したというアウグロスの思考はどんなものだったのだ?」
するとガイウスが少し顔を横に向けて、記憶を思い出すようにする素振りをして言葉を絞り出した。
「……そうだな。かなり……困っていた……かな?」
「困っていた?それはお前の実力が、本来のポテンシャルに比べて非常に低いからか?」
カルラの直言に、ガイウスが肩をすくめて嫌そうな表情となった。
「いくらなんでもハッキリ言いすぎ。まあ実際そうみたいだけどさ。どうも俺の本来のポテンシャルっていうのはとんでもないものみたいだね」
「アウグロスの言うことが本当ならば、どうもそうらしい」
「うん。なのでアウグロスはどうしたものかと困っていたんだけど……」
ガイウスが言葉を言い淀み、なにやら集中力が切れたかのように虚空をぼんやりと眺めたため、カルラがすかさず問いかけた。
「どうした?何か気になるのか?」
カルラに問われ、ガイウスはふと我に返ったように言った。
「いや、俺が本来のポテンシャルを引き出していないからって、なんでアウグロスが困るんだろうと思ってさ」
すると、言われてカルラも考え込んだ。
「ふむ、確かにな……だがアウグロスは、お前は神に戦いを挑む宿命なのだと言っていた。だがその実力は、現時点でかなり低い。だから困っていた……ふむ、確かに何かが少し違う様な気がするな……」
「そうなんだ。何で俺が神に戦いを挑む宿命なのかは知らないけどさ。それで負けるとアウグロスは困るのかな?俺が死んだらアウグロスも死ぬから?どうも違うような気がするんだよね……」
「ふむ……アウグロスも生前、神に戦いを挑んだと言っていた。だが彼の精神は今もお前の中にいる。つまりは消滅していないということだ。ならばお前がいずれ神に戦いを挑み、敗れ去ったとしても、その精神が消滅するかどうかは判らないはずだ」
「……そうなんだよね。なんていうか……かなり微妙な齟齬がある気がするんだよな~……といってもそれが何なのか、まったく判らないんだけどね……」
ガイウスはそう言うと、再び集中力の糸が切れたかのように虚空をぼやっとした表情で眺めるのであった。




