第千二百二十八話 本性
「……くそっ!あの女、絶対にどこかに移動したに違いない。あの蜃気楼は残像以外のなにものでもない。ならばどこだ!?あの女、一体何処に消えやがった!」
『三人目』が、どこからか現われるであろうカルラを警戒し、次々と場所を移動しながらその姿を探した。
「……絶対どこからか出てくるに違いないんだ……どこだ?……どこから現われる?」
『三人目』は、必死に視線をギョロギョロと左右に踊らせて、カルラの姿を探した。
だが、蜃気楼のように揺らめいている残像以外にカルラの姿はなかった。
すると『三人目』が、高速で移動し続け、視線を頻繁に上下左右に動かしながらも、突然眉根を寄せてカルラの残像を怪しんだ。
(……おかしい……あの残像が消えない……どういうことだ?残像ではないのか?……)
すると『三人目』の動きが、残像の謎に捕らわれてなのか次第に鈍くなってきた。
そして、しばらくすると『三人目』の動きがついに止まった。
「……ふざけやがって……てめえ、ずっとそこにいやがったな?」
すると突如カルラの残像の揺らめきが収まった。
「ああ。ずっといたが、何かな?」
「ふざけんじゃねえよ!馬鹿にしやがってこの女!」
するとカルラが顎をクイッと上げて、『三人目』を小馬鹿にする様に見下ろしながら言った。
「何言ってんだお前は。わたしはさっきから、ずっとお前のことを馬鹿にしていたに決まっているだろう。今に始まったことじゃないさ」
カルラのふんぞり返った嘲笑に、『三人目』が顔を真っ赤にして激怒した。
「なめてんじゃねえぞ!てめえ、絶対に許さねえ……」
「ほう、どう許さないと言うんだ?」
「その身体、皮も肉も骨ごと、一つ一つの関節ごとにぶっちぶっちと引きちぎってやる……」
「ほう、関節ごとにね。それはまた、大変な作業になるな」
「……てめえ、余裕ぶっこいてんじゃねえぞ?……俺はな……生きていたとき、そうやって何人もの女を引き裂いてきたんだぜ?」
「そうかい、ようやく自分から素性をばらしはじめたか。そうかい、早い話がお前は殺人鬼というわけか。ふうん……有り難いね。お前が馬鹿で」
すると『三人目』の顔がさらに紅潮した。
「ぶっ殺すぞてめえ!さっきから馬鹿だ馬鹿だと何度も言いやがって……これ以上言ったら……」
すると『三人目』の言葉を遮って、カルラがハッキリと大きな声で傲然と言い放った。
「馬鹿!」
カルラは心底蔑むような視線を送りつつ、『三人目』に対して最後通牒を投げつけたのだった。
そしてそれが、さらなる開戦の合図となったのだった。




