第千二百十一話 不審げな表情
1
「いや、まずい。マジでやばい……」
ガイウスは次々に空いていく巨大なエネルギー波の通り道を見て、心底焦った。
だがデルキアとカリンの表情はどちらも憤怒の形相をしており、何を言ったところで聞く耳を持たないことは火を見るよりも明らかであった。
そのためガイウスはアスタロト邸上空へと一旦退避し、建物内の状況を確認するのだった。
すると奥の方でドーブたちが慌てふためいている様を見つけた。
ガイウスは瞬時に最大速度でもって駆けつけ、ドーブたちへ避難勧告をするのであった。
「ドーブ!それにラップも!とにかく一旦皆を連れて避難した方がいい!ちょっとあいつら止まんないよ!」
するとラップが慌て気味に叫んだ。
「あいつらとはカリン様たちのことか!?何があったと言うんだ?」
「説明は後だ。とにかく避難してくれ。でなきゃ人死にが出るぞ!」
するとドーブが落ち着きを取り戻したか、重々しくうなずいた。
「……わかった。ともかくは皆を避難させるとしよう」
「ああ、頼む。じゃあ俺は出来るだけ止めるように努力するよ!」
ガイウスは言うやすぐさま上空で踵を返し、先程の大広間跡へと戻っていった。
ドーブたちは心配そうな表情を浮かべながらガイウスを見送ると、先程言われたとおりに邸内にいる者たちを避難させることに専念するのであった。
2
「状況は!?」
ガイウスは戻るやすぐにカルラに問いかけた。
だがカルラは困った表情を浮かべて首を横に振るのみであった。
「マジかよ……どうすりゃいいんだ?」
ガイウスは眼下で起こっている、凄まじい熱量のエネルギー波の衝突を眺めながら途方に暮れた。
するとそこでカルラがゆっくりと静かに下降しはじめた。
ガイウスは軽く驚き、と同時にカルラに伴奏するような形で下降し始めた。
「……ねえ、どうしたの?何かいい手でも思いついたの?」
だがガイウスの問いにカルラは答えず、不審げな表情を浮かべていたのだった。
ガイウスはそれこそ不審に思い、改めてカルラに尋ねた。
「ねえ、どうしたっていうのさ?不思議そうな顔してるけど……」
するとそこでようやくカルラがガイウスの問いに答えた。
「……よく二人を見てくれ……おかしくないか?……」
カルラに言われ、ガイウスはまじまじと眼下の二人を覗き込んだ。
すると、次第にカルラが言う意味がガイウスにも判ってきた。
「……あれって、もしかして……」
「ああ、気付いたか?おそらくだが……あの二人……既に寝ているぞ……」
ガイウスは、既に疲れ果て意識を失いながらも意地の張り合いでエネルギー波を繰り出している両者を見て、これまででもっとも頬を引き攣らせて呆れ果てるのであった。




