第千百九十二話 散弾
「……その辺にしておけ。二人とも」
デルキアたちの押し問答に、カルラが呆れたように言った。
するとデルキアが至極不満そうに言った。
「納得いかん。相手がどうあれ、動かなければ判らないこともあるだろう?」
するとカリンがすぐさま反撃に出た。
「何言ってんの?相手の出方をうかがってから動きなさいよ。基本でしょ、基本」
「だからこちらから動くことで、相手に動揺を与えることもあるって言ってんだ」
「何が動揺よ。それはあんたの方じゃないの」
「うるさい!」
「うるさいのはあんたでしょ!」
ここで再びカルラが二人の間に入った。
「その辺にしておけと言っている。三人目のガイウスが笑っているぞ」
カルラは、今現在ガイウスの表層に現われた人格を三人目と評した。
するとその三人目が、ニヤニヤとした笑いを貼り付けながら口を開いた。
「面白い見世物だな。悪くない。続けろ」
するとこれにデルキアが噛みついた。
「お前に命令される覚えはない!偉そうに言うな、ガイウスのくせに!」
すると三人目はさらににやつきを強めながら言った。
「馬鹿かお前は。俺はガイウスなどという名前ではない」
と、ここでカルラが割って入った。
「ほう、ならば名を名乗ってもらおうか」
三人目はフンと一つ鼻を鳴らすと、カルラへと向き直った。
「そうだな……名乗ってやってもいいが……ただで名乗るのはつまらんな」
「ではどうすればいい?どうすれば名乗るというのだ?」
カルラの問いに、三人目が考え込んだ。
「……そうだな。まずは久し振りの現世でもあるし……」
するとカルラが鋭く問うた。
「久し振りの現世とな?つまりお前はずーっとガイウスの中で眠り続けていたということか?」
三人目は不愉快そうに口をへの字にひん曲げた。
「……俺がしゃべっているときに勝手に質問してんじゃねえよ!」
三人目は途端に怒りだし、強力なオーラを放ち始めた。
そしてオーラが臨界点に達すると同時に、四方八方へ向けてオーラの散弾をぶちまけ始めた。
カルラたちは瞬時に自らの周りに防御壁を張り、難を逃れた。
「くそっ!くそっ!くそっ!生意気な女だ!ぶっ殺してやる!」
三人目は物騒な文言を怒鳴りながら、執拗に散弾を撃ち続けた。
カルラは防御壁の中から三人目の様子を観察し、一つ溜息を漏らした。
「……まったく、碌でもない奴だな。こんな奴もいるとはな……実に面倒なことだ……」
カルラはそう呟くと、また一つ大きな溜息を吐いて、この後の展開がどうなることかと案じるのであった。




