第千百八十三話 右腕の動き
1
デルキアにとっては永遠とも思えるほどの無為の時間が過ぎ去り、ついに念願の変化が訪れたのだった。
「……ふん、奴め、ようやく動いたか?」
デルキアの視線の先には背中を向けたガイウスがおり、その右腕を前方のカルラに向かってゆっくりと静かに突き出そうとしていたのだ。
するとカリンもまた、同様にその様を見て呟いた。
「……ようやく動いたわね。でも……ずいぶんとゆっくりとした動きね?」
カリンはそう言って傍らのラップを見た。
ラップもまた、カリンたち同様ガイウスのあまりにもゆったりとした動きに不審を抱いていた。
「……はい。どうもおかしな動きに思えます。なにやら操り人形のような動きに……」
するとカリンが即座に同意した。
「ああ、それだわ。わたしも何かに似ていると思っていたけど、それよ。操り人形よ。となると……カルラが操っているということかしら?」
「……わたくしにはカルラ殿が操っているようには見えませんが……」
ラップの答えを聞いて、カリンは改めてガイウスの先にいるカルラを見た。
するとカルラは先程同様にオーラを放出し続けており、ラップの言うようにガイウスを操っているようにはまったく見えなかった。
「……そうね。カルラじゃないっぽいわね……じゃあ誰かしら……」
「……申し訳ございません。わたくしには判りかねます……」
「そうよね……他にこの場にはいないものね……あっ!今度は左腕が動いたわよ。まだ右腕が上がりきってないのに、なんなのかしらあの動きは……」
「……明らかに妙です。やはり何者かに操られているとしか……」
するとカリンの顔から笑みが消えた。
「……なんか嫌な予感……やばそうな気配が……するじゃない、まったく……」
カリンは溜息混じりに、静かにぶつくさと文句を垂れるのであった。
2
「……ちっ!ガイウスの奴め!何のつもりだ?」
カルラはガイウスの右腕が静かにゆっくりと自分に向けて上がりつつある様を見て、不機嫌そうに呟いた。
だがその動きがあまりにもゆっくりなため、次第に不審げな顔付きとなった。
(……なんだ?動きが遅いにもほどがあるぞ?……妙だな?……あの動きは……一体何だ?)
カルラは心の中で自問自答した。
そして出した答えは、カリンと同じものであった。
(……何者かに操られている?……となると誰だ?……この場にいる者ではない。そんなことをする理由は無いからな……では誰だ?ガイウスの意識が薄れているのを良いことに、その身体を乗っ取るような真似をする者とは……一体……)
カルラは憮然とした表情でもって前方のガイウスを睨み付けつつ、いつ何時予想外の展開が起こったとしても対処出来る様、心の準備を整えるのであった。




