第千百六十一話 特殊な何か
「……ダメか……」
ガイウスがうめくように呟いた。
だがそれを聞いたカルラがすかさず叱咤した。
「まだ始めたばかりじゃないか。諦めが早すぎだ」
「それはそうだけど……でも何となくダメな気が……」
するとカルラの怒号が部屋一杯に鳴り響いた。
「なんだいそれは!何となくで判断するな!この馬鹿弟子が!」
するとガイウスが思わず首をすぼめながらも、必死で反抗した。
「……いや、何となくってのはあくまで言葉のあやで、この反応の無さは……」
「何言ってんだい。この治療を始めた頃は今と同じく全く反応が無かったじゃないか」
「それはそうなんだけど、さっき一回復活したでしょ。なのに一切反応が無いっていうのは……」
するとカルラがここで初めてガイウスを振り返って言った。
「何だって言うんだい?言ってみな」
するとガイウスが、意を決したように口を開いた。
「やっぱりこれ、サタンの影響なんじゃないかな?」
するとカルラが目をスーッと細めた。
「……まだ言ってんのかい。前にサタンは治癒魔法が得意だとは思えないと言ったはずだが?」
「いや、治癒魔法が使えるかどうかじゃない。シェスターさんに聞いた話しだと、アスタロトはサタンの攻撃に特別弱かったって聞いてる。多分相性が悪いんだろうね。本来ならば及ばずとも対等に近いくらいの力量を持っているはずが、サタン相手にまったく歯が立たなかったらしいんだ」
するとカルラが右眉をクイッと上げた。
「ほう、それで?」
「つまり、その……サタンの攻撃には特殊な何かが含まれているんじゃ無いかと思うんだよ」
「だからそれをサタンに聞きに行くってわけか?」
「……まあ、そうだね」
するとカルラが厳しい表情となって考え込んだ。
「……ふむ。だがそれを聞いたとて、なんとかなるとも思えんが……」
「かも知れない。でも闇雲にこのままやってもダメな気がするんだよ」
「しかし、一旦は復活したのだぞ?」
「うん、まあそうなんだけど……なんて言うか……」
するとそこで突然、後方からデルキアが声を発した。
「それはまずいだろう」
ガイウスは驚き、振り返って尋ねた。
「……まずいって何が?」
デルキアは難しい表情を浮かべながら、ゆっくりと歩き、ガイウスの傍らまでやってきた。
そしてゆっくりと首を巡らしてガイウスを見ると、静かにその可愛らしい口を開いて言ったのだった。
「お前がサタンのところへ行くのはまずいと言っている。サタンの目的は特異点たるお前を利用して、囚われの身から解放されることなのだからな……」




