第千百四十話 ラップ
ガイウスたちがアスタロト邸の門扉をくぐり、中庭を通っておどろおどろしい玄関の前に辿り着くと、突如として彼らの前の空気が揺らめいた。
するとその揺らめきは次第に人の形となっていき、ついには黒装束を身にまとった者たちが五人ばかり姿を現わした。
「……ドーブ殿、お待ちしておりました……」
すると一団の中で最も長身の男が、一歩前に進み出でて静かな口調でもってドーブへと語り掛けた。
するとドーブがすかさず軽くうなずき、返答をした。
「……いきなりですまぬ。話しは聞いているだろうか?」
「はい。アスタロト様方を復活させられるやもしれないとか……」
「……うむ、やってみなければわからないことではあるがな……」
「そうですか。ですが、ほんのわずかでも可能性があるのでしたら、やらない理由はありませんな?」
「……ああ、そう思って我らも来たのだ」
「では、こちらが?」
黒装束の長身の男が、そこでドーブの後ろに控えるガイウスたちに視線を移した。
ドーブはうなずき、二人を紹介するのだった。
「ラップよ、紹介しよう。こちらの女性がカルラ殿。そしてこちらの青年は……」
すると黒装束の男ラップが、ドーブの言葉を遮って言った。
「ガイウス・シュナイダー殿ですな。以前お目にかかったことがある」
するとドーブが大きくうなずいた。
「……そうであったな。ガイウスは以前ここへ来たことがあったのだったな?」
するとガイウスが一歩進み出でて言った。
「ああ、そう言われてみればこの人の顔、見た記憶があるな。ラップさんだっけ?」
ガイウスに問われ、ラップが返答した。
「はい。ほんのわずかの時間ではありましたが、お会いしております」
「うん、しっかり思い出したよ。確かに会った。アスタロトの目の前に陣取っていた人だ。それに……多分前世でも会ってるね?」
するとラップが大きくうなずいた。
「はい。遙か遠い昔のことになりますが、確かにお会いしております」
「やっぱりね。確かアスタロトの腹心の部下だ。それも……多分一番手の」
するとドーブがガイウスの記憶の正しさを肯定した。
「……その通りだ。ラップはアスタロト様から最も信頼されている部下で間違いない」
「なるほどね。俺の記憶は間違いないって訳だ」
「……そうなるな」
「でも一つ聞きたいんだけど、なんで俺はラップのことは憶えているのに、カリンのことは憶えていないんだろうか?」
するとこのガイウスの疑問にはラップが答えた。
「簡単な事にございます。アスタロト様とガイウス殿が友誼を通じた前世の後に、カリン様とのご婚儀を挙げられたからに他なりません」
ガイウスはこの回答に、満足げにうなずくのであった。




