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第千百三十話 アスタロト邸にあるもの

「……ぬ……ぐおおおおおぉぉぉぉ……」


 広大なデルキア邸の一角を占拠する、とても豪華な意匠の巨大浴場のこれまた大きな浴槽にその身を沈めたガイウスの絶叫が大理石の壁に大きく反響した。


「……ふう……疲れを癒やすには、風呂に入るのが一番とは言え……やっぱり……傷口にしみるな……はあ~……」


 ガイウスは、自らの身体に負った無数の擦り傷に、適度に暖められた温水がしみて痛みを覚えつつも、それ以上に全身の力が抜けて身体が解きほぐされていくのを感じて、安堵の溜息を漏らした。


「……それにしても、今回はちょっと行き当たりばったりに過ぎたかな……」


 今回の地獄行きに関しては、思い立ったが吉日とばかりに勢い込んで来たものの、さすがに何の目算も立てずにいたことをガイウスは少し反省した。


「……まあでもなんとかここまでこれたし……よしとするか……」


 ガイウスはほんのわずかばかり反省したものの、生来の適当さと楽観主義のためか、あっさりとそのことを忘れ去った。


「……さて、となると……ああ、そうか。ここはデルキア邸なんだし、仮死状態のデルキアはここにいるってことかな?……」


 するとガイウスの独り言に答える声が広大な浴場に轟いた。


「……いや、ここにはデルキア様はおられん……」


 ドーブである。


「ああドーブ。えっ?デルキアはここにはいないの?なんで?」


「……デルキア様はアスタロト様の邸宅にいらっしゃる……」


「なんで?ここへ運び込まなかったの?」


「……うむ。ここよりもアスタロト様の邸宅の方が回復が早いのでな」


「そうなの?回復が早いって……アスタロトの邸宅には何か特別な仕組みでもあるって言うの?」


「……まあそうだ。アスタロト様の邸宅には竜の涙があるのでな……」


 するとガイウスが反射的に飛び上がった。


「竜の涙だって!?マジで!?」


 ガイウスのあまりにも激烈な反応に、さしものドーブも驚き、身体を後ろに反らす程であった。


「……どうしたというのだ急に?……竜の涙に興味でもあるというのか?」


「あるある!大いにあるよ!ていうか竜の涙って一つじゃないの?いや、もしかしてあの時の竜の涙をアスタロトが手に入れたってこと?ねえドーブ!答えてよ!アスタロトが竜の涙を手に入れたのって最近のことなの!?」


 ガイウスの勢いに押されまくり、ドーブは驚きの表情を見せつつも、なんとか気持ちを立て直して静かに浴槽に片足をゆっくりと入れつつ言った。


「……最近ではないな……遙か以前のことだ」


「そうか。じゃあやっぱりあの竜の涙とは別の奴ってことだ。てことは竜の涙は複数あるってことか……」


 ガイウスはそう呟くと眉根を寄せてしばし考え込むのであった。

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