第千百十三話 実害
「……わたしがか?……」
「そう。カルラが」
カルラは眉根を寄せ、右目を瞑るか瞑らないかくらいに薄く引き絞ってガイウスを睨んだ。
「……からかってるんじゃないだろうね?」
ガイウスは軽く肩をすくめた。
「そんなんじゃないさ。最初は話し方が変わったから若返ったように感じるだけだと思ったけど、やっぱり若返っているよ」
「……自分ではよく判らないね……」
「かもね。俺も自分の精神年齢がだいぶおかしいって気付くまで結構かかったし」
「ふむ……気分だけの問題じゃないか?正直さすがのわたしも肉体が若返って気分いいしね。それがそういう雰囲気を醸し出しているってだけなんじゃないのかい?」
「う~ん、そう言われるとそうかもしれないけどね。でも、なんていうか、それだけじゃ無いような気がするんだよ」
「そうかい……まあ、お前という実証例があるわけだしね。もしかするとお前の言うとおりなのかもしれないね」
「うん。ただ、だからなんだって話しではあるんだけどね。実際それで何か不都合があるわけじゃないし」
「まあ、確かにそうだな。仮に精神が若返ったのが事実だとして、それで実害がでるわけではないからな。これで記憶がなくなって、いくつかの呪文を忘れたとかいうことならば問題だが、どうもそうではないようだしな」
「ああ、だからまあ……それだけの話しではあるんだけどね」
「しかし、その辺の記憶をもしも本当にルキフェルに消されているのだとしたら、もしかするとお前が気付いていないだけで実は実害があるのかもしれんな」
カルラの指摘にガイウスが驚いた。
「……確かに……本当は何らかの実害があるか……何かそう言われると、そうかもって思っちゃうな……」
するとカルラがニヤリと笑った。
「だがまあ、その辺のところを検証できるわけでもないしな。ひとまずこの件は置いておくことにしよう」
カルラの提案にガイウスもうなずいた。
「そうだね。いくら考えたって判らないことは、考えないに限る」
「そういうことだ。では改めて先を急ごうじゃないか。この先、だいぶあるんだろ?」
「ああ、ずーっとずーっと、すんごい先まで曲がりくねった道が続くよ」
「ならばこんなところでいつまでもしゃべっていても仕方ないだろう。早速出発しようじゃないか」
カルラはそう言ってガイウスを促した。
ガイウスも大きくうなずき、洞穴を見た。
「そうだね。早いところ出発しないといつまで経っても地獄へなんて辿り着かないね。よし、じゃあ早速行きますか」
ガイウスはそう言うと、軽く溜息を一つ吐き、次いでゆっくりと浮き上がった。
そして再び洞穴を覗き込むや、ゆっくりと下っていった。
カルラはその背を見送ると、同じように軽く溜息を吐き、やおら首を軽く横に一回振るや、静かにガイウスの後を追うのであった。




