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第千百十話 飛翔

 1



「ああ、グレン、悪いんだけど急用が出来た。一週間ほど留守にするから一人で研究しといて」


 ちょうど風呂から上がって自室に戻ろうとしたグレンを見とめて、ガイウスが言った。


 グレンは軽く驚き、答えに窮した。


「えっ……一週間ですか?それはまたずいぶんと……あの、どちらへ行かれるのですか?……」


「ああ、まあ……色々とね。ま、そんなわけだから後よろしくね」


「……でもあの書類は……」


「あれは帰ったら改めて俺が解読するよ。たぶん他の人には無理だと思うし」


「はあ……ではわたしは……」


「これまでどおりオーガ神の研究をよろしく頼むよ」


「……はい、では……」


 すると急いでいる様子のガイウスがさっと踵を返した。


「うん。じゃあ後よろしくね」


 ガイウスはそう別れを告げると、戸惑うグレンを廊下に残してさっさと立ち去るのであった。



 2



「用意はいいか?」


 中庭で佇むカルラが、ガイウスの姿を認めるなり言った。


 ガイウスはうなずき、笑顔を見せた。


「ああ、シェスターさんへの言付けも頼んだし、問題ないよ」


「そうか、では行くとするか」


「そうだね。善は急げだ。早速行こう」


 ガイウスはそう言うと、飛行魔法によってふわっと身体を浮き上がらせた。


 するとカルラも同様に音もなく浮いた。


「よし。ではガイウス、道案内を頼むぞ」


「了解。最大速度で行くから付いてきてよ?」


 するとカルラが鼻でせせら笑った。


「お前、誰にものを言っているつもりだ?さっさと行かんか」


「へいへい、そうでしたね。じゃあ、改めまして出発するよ」


 ガイウスはそう言うと、自らの身体をほんのわずか発光させた。


 次いでガイウスの髪の毛がふわっと浮き上がって逆立つと、ガイウスの目が爛々と輝いた。


 そしてほんのわずか口角を上げてニヤリと微笑むと、瞬間的に消え失せたかと思わせる程の爆発的な加速でもって上空目掛けて飛び去ったのであった。


 カルラはその様子を見て、ガイウスよりもさらに口角を上げてニヤリとすると、多少感心した様子でもって呟いたのだった。


「……ふむ。まあ多少は出来る様になったがね。まだまだ……」


 カルラはそう言い捨てると、ガイウス同様自らの身体を淡く発光させた。


 次いでやはり同様に自らの髪をゆっくりと逆立てた。


「では……行くとするか。さすがにあまり余裕ぶっていると、置いていかれそうだ……」


 カルラはひとしきりとても楽しそうに笑うと、キッと表情を引き締めた。


 そして自らの瞳を煌々と妖しく美しく輝かせると、辺りに爆風を吹き付けて上空彼方へと飛び去っていったのであった。

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