第千百八話 あやふやな記憶
「……どういう意味?イメージって言ったのがそんなに悪かった?別に問題ないんじゃ……」
困惑気味のガイウスが言った。
だがカルラは表情一つ変えずに、ガイウスをさらに詰問した。
「悪いとは言っていない。だが、イメージという言葉には引っかかるものがある。イメージとは漠然としたものを捉えたときに使う言葉だ。お前は図らずもそれを使ってアスタロトを語った。それが引っかかると言っている」
「判らないな。漠然としたものじゃないの?人の印象なんて」
「ガイウス、わたしはアスタロトの印象を語れなどとは言っていない。印象もイメージも同じだからな。わたしが語れと言ったのはお前が思うアスタロトの人物像だ。だがお前はあやふやなイメージだの印象だのを語ろうとする。なぜハッキリと人物像を語らないのだ?お前の記憶の中のアスタロト。その記憶をつなぎ合わせて人物を語ればいい。なのにお前はそうしない。なぜだ?」
「なぜって……別に……」
「では言ってやろう。お前の記憶の中のアスタロトはあやふやなのだ。違うか?」
するとガイウスが驚きの表情を浮かべた。
「あやふや?アスタロトの記憶が?……」
「そうだ。だからなんとなくのイメージで語ろうとしたのだ。おそらくお前の記憶のアスタロトは靄のようなものがかかっているはずだ」
ガイウスはカルラの指摘にハッとした表情となった。
「……そうかもしれない……確かに顔はハッキリと思い出せる。思い出も良いものばかりだと思う。だけど……ハッキリとした記憶じゃない……しっかりとしたアスタロトとのエピソードも思い出せない……もしかしてこれは……」
するとカルラがガイウスの言葉を継いだ。
「植え付けられた記憶かもしれんな」
ガイウスは愕然とした表情となった。
「植え付けられた……誰に?……もしやルキフェルか?……」
ガイウスは怒りに満ちた表情で、腹立たしい神の名を呼んだ。
「かもしれんし、そうでないかもしれん。そもそも単に記憶があやふやなだけで、実際アスタロトとお前は友人なのかもしれんしな」
するとガイウスがあることを思いだした。
「そうだ!シェスターさんだ!カルラ、シェスターさんもアスタロトに会っていると言ったよね?その時、シェスターさんが言うにはアスタロトも俺のことを友人だと言っていたそうだよ?」
「ふむ。確かにそうだったな。だが……シェスターの記憶も植え付けられたものだとしたら?」
ガイウスは目を剥いて驚いた。
「……いや、でもそれを言っちゃったらなんにも信じられないよ……」
するとそこでようやくカルラが表情を和らげた。
「まあな。おそらくお前の記憶があやふやなのは、まだ完全には戻っていないせいだろう。それにお前とアスタロトが友人であることも間違いあるまい。だが……お前の記憶はあまりにもあやふやだ。ならば記憶の一部は、ルキフェルによって作られたものである可能性はあるぞ。そのことは肝に銘じておいたほうがいいだろうな」
カルラはそう言うとキュッと口をひき結び、厳しい表情へと戻るのであった。




