第千百六話 直接
1
「……てことは……それだけ最後のエピソードは重要ってことか……」
ガイウスは目を細め、遠くを見るようにして呟くように言った。
「はい、おそらくは。ですが、判ったのはそこまででして……その最後に生える木というのは実際に生えた木のことを言っているのか、それとも何らかの比喩なのか、それも今のところは判りません」
「比喩か……確かにそうかも……あ~、でも本当に何らかの木が生えた可能性も当然あるな……」
「はい。もし本当に何らかの木が生えたとするなら、どちらが生やしたのか、それとも両者に関係無しに何らかの理由で生えたのかが問題になるかと……」
「生えた理由ね……う~ん……それは難問だな……ハッキリ言ってそんな話し聞いたことないしな。グレンはある?これに似たような話し」
するとグレンが大きく首を横に振った。
「いえ、残念ながら。このエピソードに似た話しというのは、記憶にありません」
「そうか……となると、直接本人に聞いてみるのが一番か……」
ガイウスの呟きに、グレンがキョトンとした表情となった。
「……本人に直接って……あの……」
するとガイウスが慌てて誤魔化した。
「ああ、いや!なんでもない。そうだな、ちょっとカルラに直接相談してみるとしよう。カルラは伝説の大魔導師だし、もしかしたらこのエピソードも聞いたことがあるかもしれないから」
グレンは不思議そうな表情を浮かべるも、それ以上突っ込むこともなかった。
そのためガイウスは、ホッと安堵の表情を浮かべながら立ち上がったのだった。
「じゃあ、俺はこれで一旦上がるよ。グレンはどうぞごゆっくり」
ガイウスはそう言い残すと、そそくさと湯船から上がり、そのままの足で浴場を出て行ったのであった。
「……まあ、いいか……」
グレンはさも不思議そうな表情であったものの、当のガイウスが既に立ち去ったため、仕方なく納得するのであった。
2
「いやあ~やばいやばい。ついうっかり言っちゃったな」
ガイウスは脱衣所にて、自らの身体に付いた水滴をふかふかのタオルで丹念に拭き取りつつ、思わず自分が口走ったことを反省した。
「でも、一番手っ取り早いのは、やはり直接アスタロトに聞いてみることだよな……うん。やはりこれはカルラに相談してみることにしよう」
ガイウスはそう独りごちると、メルバ邸の召使いによって用意された新しい衣服を着込んだ。
「ぐっ!……つぅ~……擦り傷が服に擦れて……痛っええええ……」
ガイウスは顔を歪め、出来るだけ服と身体が擦れないようにゆっくりとした足取りでもって、静かに脱衣所を出て行こうとするのであった。




