第千百五話 主客転倒
「……あのさあ……その話しのどこが面白いんだよ……意味ないじゃん……」
ガイウスはしらけた様子で湯船のお湯を掬い、自らの顔をそれで洗いつつ呆れたように言った。
するとグレンは少しへこんだ様子であったものの、訥々と自らの考えをガイウスに明かしたのだった。
「はあ……まあ確かに意味がない話しのように思われるのも無理はないかもしれません……ですが、わたしは意味はあると考えています……」
「あっそ。俺はなんにも意味はないと思うけどね~。だって木が生えただけだろ?二人の話しの内容もわからないし、何か適当にとってつけた話しなんじゃないのかな?」
「とってつけた話しですか……」
「ああ、だってダロス土着の神々を描いた他の書物は、大抵オーガ神が主役で出ずっぱり状態なんだろ?それに対してその寓話集はオーガ神がまったく出て来ない。だから辻褄合わせっていうかなんていうか、最後にオーガ神を出さなきゃと思って、とってつけたように適当な話しをくっつけたんじゃないの?」
「はあ……そうですね。確かにわたしも、最初はそういう風に考えていました」
「うん?……最初は?じゃあ今は違うって言うの?」
「はい。違う……と思います」
「ふ~ん、じゃあ聞こうじゃないの。今はどういう風に思っているのさ?」
ガイウスに請われ、グレンは心底で思っていることを吐き出した。
「はい。先程とってつけたと言われましたが、わたしもそれはそうだと思ってます」
「……うん?そうなの?……じゃあ同じじゃん」
「いえ、それが違うのです」
ガイウスは不思議そうな表情を浮かべた。
「う~ん……とってつけたとは考えている……だが俺とは違う……さっぱりわからないな。教えてよ」
ガイウスはせっかちな性格が本領を発揮し、グレンに急いた。
グレンはうなずき、自らの考えを披瀝した。
「はい。とってつけたのは最後のエピソードではなく、その前の全文ではないかとわたしは思っています」
するとガイウスが、アッという驚いた顔となった。
「つまり主客転倒か……最後のエピソードをとってつけたのではなく、それ以外の全てが偽物ってことか……」
「はい。まあ偽物というと多少語弊がございます。というのもその他のエピソードについては、以前に読んだことがあったので……」
「なるほどね。つまり偽のエピソードではないが、他の書物からの寄せ集めってことか?」
「その通りです。決まった登場人物のエピソードを、色んな書物から抜粋して編集されたものだと思われます」
「つまり……最後のエピソード単独ではあまりに分量が少ないため、色んな書物から寄せ集めたエピソードをとってつけて前に置いた……ってことね?」
「はい。それが正しいかと」
グレンは力強くうなずくのであった。




