第千百四話 めでたしめでたし
「……なるほどね。他のエピソードは特に繋がりはないにせよ、登場人物たちはある程度一緒なんだね?」
「はい、そうなんです。なのでおそらくは……」
「わかった。それはそれとして、そろそろその最後のエピソードについて詳しく教えてよ?」
「はい、わかりました。話しは両者がダロスの険しい山の頂にて、岩に座って話しをしている場面から始まります」
「ふ~ん。出会う場面は描かれず、すでに会っているところから始まるって訳ね?」
「そうです。両者は何かについて話しをしています。ですが、その内容は最後までわかりません」
「何それ……話している描写はあっても話しの中身については描かれてないってわけ?」
「そうなんです。ただ、何事かで両者が揉めているという……」
「揉めているのか……ただ話しをしているんじゃなくて揉めている……」
「はい。そこでオーガ神が怒って立ち上がります。するとそれに呼応するかの如くアスタロトも立ち上がりまして……」
するとガイウスが話しの先を待ちきれずに言った。
「戦いが始まったって訳ね?」
するとグレンが大きく首を横に振った。
「いえ、違います」
「そうなの?戦わなかったの?じゃあどうしたって言うのさ?」
「別れました」
「……別れましたって……別れてお互いに帰っちゃったってことじゃないよね?……」
「いえ、その通りに両者共、帰っちゃったんです」
ガイウスは驚き、慌ててグレンに問いかけた。
「ちょっ!ちょっと待って!それじゃあ話しが終わっちゃうじゃん!」
「いえ、終わりません。続きがありますので……」
「何だ。それならそうと早く言ってよ。で、その後どうなるの?」
するとグレンは少し難しい表情を浮かべて言うのであった。
「……そのう……木が生えました……」
するとガイウスが拍子抜けの表情となった。
「……へっ?……木?……木が生えて、それでどうしたって言うのさ?」
するとグレンが少々困り顔となった。
「……いえ、それがそのう……それだけでして……」
ガイウスはさらに拍子抜けした様子で、気が抜けたような声で問うた。
「……それだけって……いや、その木が生えました。終わり。ってわけにはいかないだろう?」
「それが……その通りの終わり方でして……」
「は~~~?何だそれ!冒頭二人が石に座ってました。二人は何事かで争っています。そして二人は立ち上がって帰っちゃいました。そしてそこに木が生えました。めでたしめでたし……なんて話しがあるかよ!」
「と言われましても……そういう記述になってまして……」
ガイウスは心底呆れたといった表情でグレンの顔を眺めるのであった。




