第千百一話 図書館
「……あ、そうですよね……はい、確かに……」
グレンは申し訳なさそうにそう言うと、少しガイウスとは距離を取って湯船に浸かった。
その距離はおよそ三M程と、かなり微妙な距離であり、二人の間には気まずい空気が流れ、しばらくの間沈黙が空間を支配したのであった。
するとその空気に耐えられなくなったガイウスが音を上げた。
「あのさあ、いや別に俺は怒っているわけじゃないよ?」
するとグレンが頬を引きつらせながら愛想笑いを浮かべた。
「……ああ、はい……」
すると今度はガイウスも頬を引きつらせた。
「……いや、その……さっきはちょっと強めに言っちゃってごめん……」
するとグレンが慌てて両手を振って恐縮した。
「あ、いや、こちらこそすみません……お気を使わせてしまって……」
二人の間にはさらに気まずい空気が流れた。
するとグレンが、意を決したように話しかけた。
「……あのう……例のオーガ神のことなんですが……」
突然の話題変更に、ガイウスが少しびっくりした素振りを見せた。
「……えっ!?なに?何か判ったの?」
「……はい。この館には大きな図書室がありまして……あ、図書室っていうより、図書館って言った方がいいかな?……」
するとガイウスが少しイラッとした口調となって言った。
「いや、そんなのどっちでもいいから。で、その図書館に何があったのさ?」
グレンはまたも縮こまり、オドオドした様子を見せた。
そのためガイウスが軽く溜息を吐いて、グレンに対して謝罪する羽目となった。
「……ごめんグレン。また言い過ぎたよ。実はさっきちょっとさ、カルラに鬼のような猛特訓を受けて身体がボロボロなんだよ。なのでちょっと気が荒くなっちゃっててさ。ごめんな」
「……そうだったんですか……それは大変でしたね?……」
「まあね。あの人、手加減ってものを知らないからさ。ちょっと洒落になんないレベルで痛ぶられたよ……」
「……そ、そんなにですか?……」
「ああ、本当の話さ。カルラは容赦とかしてくれないんでね。ほら、見てよ。擦り傷だらけだろ?」
ガイウスはそう言って湯船に沈めていた右腕を水面の上に持ち上げて、グレンに見せた。
「……えっ!?それ……痛くないんですか?もの凄くしみると思うんですが……」
「しみるよ。それに無茶苦茶痛い。さっきグレンが風呂場に入ってくる前は、散々叫びまくっていたんだよ」
「……はあ、でしょうね……」
「ま、そんなわけだから勘弁してよ」
「あ、はい。とんでもないです」
こうして両者のわだかまりは、若干溶け始めてきたのであった。




