第千百話 入浴
1
「どうやら心底懲りたようね?いいわ、だったら許してあげる。でもいい?また今度同じ様にわたしに対して命令したら、こんなものじゃすまないわよ。いいわね?」
するとガイウスがいまだ痛みの癒えぬ表情で、必死に何度もうなずいた。
エルバはその様子を見て再度満足げにうなずくと、ガイウスの横をすり抜けてスタスタと立ち去っていった。
ガイウスはその場でしばらくの間微動だにせずジッとしていたものの、大分時間が経ってようやく痛みが引いてくると、怒りとも悔恨ともつかぬ表情を浮かべて呟くのであった。
「……油断した……またしても油断してしまった……まさかいきなりの股間攻撃とは……エルバ恐るべし……」
ガイウスは満身創痍の身体を引きずってノロノロと風呂場へと向かうのであった。
2
「……ぐうおぉぉぉぉ……うぅ……くぅ……んっ!……ふあぁぁぁぁ……」
ガイウスが擦り傷だらけの身体を湯船に浸けると、予想通りにしばらくの間大きな声でうめき声を上げ続けた。
「……ぐっ!……かっ!……はぁ……あぁぁぁぁ……うぅぅぅぅ……ん……んんん……ぎぃ……ぎぎぎぎぃ……くう……ふっ~……ふう……」
メルバ邸の一階にある大浴場は温泉であり、常に源泉からお湯が渾々と湧きだしているため、二十四時間入浴することが出来、また邸内の者なら誰でも入浴することが可能なため、いつも誰かしら使用している人気の施設であった。
だが今は時間的なものなのか、他には誰も入浴していなかったため、ガイウスは遠慮なしにうめき声を大きな声で上げ続けることが出来たのであった。
「……ぐぅ……うぅ……あ……はぁ…………だいぶ……慣れてきたかも……あ!……い……い……まだ、駄目かも……つっ!……ぐぅ……」
ガイウスはそれからさらにしばらくの間、独り言ともうめき声ともつかぬことを言い続けた。
すると、突然大浴場の扉を開けて、誰かが入ってきた。
だがガイウスは扉に対して背中を向けていたため、誰が入ってきたのか判らなかった。
そのためガイウスは満身創痍の身体をよじって多少うめき声を上げながらも後ろを見た。
そしてガイウスはオドオドとした様子で背中を丸めて近づいてくる男の顔を確認して、その名を呼んだ。
「……グレンか……」
するとグレンがなにやら恥ずかしそうに顔を赤らめながら、ガイウスのすぐ近くまで来た。
「あっ、どうも……すみません。ご一緒してもよろしいですか?……」
怖ず怖ずとしたグレンに、ガイウスは少々面倒くさそうに返した。
「……ああいいよ。てかここは別に俺専用じゃないから断りはいらないよ」
ガイウスはようやく身体が慣れたのか、スムーズに話すことが出来た。
そのためグレンはガイウスが怪我をしていることに気がつかなかったのだった。




