第千九十五話 残留
「いやあ~実はその資料っていうのがさあ~。特殊な言語で書かれていてさあ~俺しか読むことが出来ない代物なんだよね~」
得意げな表情を浮かべるガイウスに、カルラがこめかみに筋を立てて苛ついた。
「特殊な言語だと?だから何だい。他に誰一人読めないってわけじゃあるまい?さっきのグレンだったら読めるんじゃないのかい?」
するとガイウスのにやけが増大した。
「いや~それがそうもいかないんだよねえ~。グレンがいくら古代文字に詳しくてもねえ~こればっかりは無理だと思うよ~?まあ実際にあれを書いた奴がいる以上、この世界にあれを読むことの出来る者が他にもいるかもしれないけど~。捜し出すのは大変だと思うよ~」
勿体ぶったガイウスの言い方に、カルラがほとんど切れ気味に言った。
「もっと分かり易く言いな!その言語っていうのは一体どんなものなんだい!?」
するとガイウスがおもむろに顔を上げて言った。
「俺が以前いた、あちらの世界の言語なのさ」
するとカルラが凶悪な面相となって舌打ちした。
「……てことは、その資料を書いた者も転生者ってことか?」
「たぶんね。ただ資料は膨大にあるもんだから、もう少し読み込んでみなけりゃ詳しいことは判らないんだ」
「ふむ……では書いた者がフラン元大司教であるかどうかもまだ判ってないのか?」
「まだだね。フラン元大司教が自分で書いたものなのか、それとも部下の誰かに書かせたものか、そしてその者が転生者なのかどうかについてもまだ判っていないんだ。ていうか、もしかしたらそれを書いたのは、前世の俺かもしれないんだよ」
するとカルラが腕を組んで考え込んだ。
「……そうかい……ならお前はここに残るしかないね……」
するとガイウスの表情が途端にパーッと明るくなった。
「まじで!?そう!そうだよね!俺しか読めないわけだし、ここに残るしかないよね?そう、そうだよ。いやあ~残念だなあ~。俺もタルカに行きたかったけど、こればっかりは仕方ないよね~。いやあ~残念だなあ~特訓も是非とも受けたかったんだけどなあ~いやあ~本当に残念だなあ~」
ガイウスはこれ以上ないというくらい、顔を綻ばせて言った。
するとカルラがそんなガイウスに対して、探るような視線を送った。
「ほう~?そんなに特訓を受けたかったのかい?」
するとガイウスが、一つコホンと咳払いをして、真面目くさった表情となった。
「いや、それは勿論だよ。やっぱりカルラの特訓は実力がつくからね。今後のことを見据えたらレベルアップをはかっておきたかったところだよ」
するとカルラが、さらに深く探るような疑いの眼差しをガイウスへと向けたのだった。




