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第千六十八話 食後

「ふう~喰った喰った」


 ガイウスはテーブルの上の三人前分は優にあろうかという量の皿を綺麗に平らげ、満足げな表情で自らの膨らんだお腹をポンポンと叩いた。


 するとそこへエルバが、珍しく独りで現れた。


「なによあんた。ずいぶんと下品な食べ方してるわね?」


 エルバは左手で払うような仕草をして、給仕たちにテーブルの上の皿を下げるように指示をしながら、ガイウスに対して軽く毒づきつつ座った。


「腹減ってたんだ。別に良いだろ、このくらい」


 ガイウスが、突然背後から現れいきなり毒づくエルバに対し、抗議の声を上げた。


 だがエルバはフンと鼻を一つ鳴らすだけであった。


 そのためガイウスは食事も終わったことでもあるし、席を立とうと軽く腰を上げるも、あることを思いだして再び腰を下ろしたのであった。


「あのさあ、この後どうするの?」


 突然のガイウスからの問いに、エルバが眉根を寄せた。


「この後?当然今から朝食よ。あんたと違ってわたしは今ここへ座ったばかりなんですからね」


「いや、そういうことじゃなく、今後のことを聞いているんだよ。棺の秘密が判明するにはまだだいぶ時間がかかりそうだ。その間君はどうするつもりなんだ?」


「ああ、そういうことね。だったら最初からそう言いなさいよ。判りづらいわね」


 エルバが咎めるように言ったため、ガイウスはほんのわずかカチンと頭に来たものの、ここは堪えて大人の対応をした。


「……それは悪かったな。で、どうなんだ?」


「そうね……どうしようかしら……わたし一応大司教職だから、あまり長いこと帝都を離れるわけにはいかないんだけど……」


 エルバはそう言ってしばしの間黙り込んだ。


 だがしばらくして腹が決まりでもしたのか、突如スッキリとした顔となって朗らかに言ったのだった。


「やっぱりここに残るわ」


 ガイウスは予想通りのエルバの答えに、思わずニヤリとほくそ笑んだ。


「なるほどね。やっぱり棺が気になる?」


 するとエルバが可愛らしく小首を傾げた。


「まあね。そりゃあんなもの目の前で見たら誰だって興味も持つわよ。しかもどうやら本物らしいしね」


「ま、そうだよな。でも本当にいいのか?オーディーンに帰らなくて」


 するとエルバが右手の人差し指を顎の下に当てながら答えた。


「帰った方がいいんだろうけどね。でもこのままじゃどうしたって帰れないわよ。だってわたしがいない時に棺の秘密が判明したら嫌じゃない。しかもここ、仕方なかったとはいえメルバの館よ?」


「メルバに独り占めされると?」


 ガイウスはそう言って少し意地悪そうに笑ったのだった。

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