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第千五十五話 半笑い

 ディアーナの軽く人を小馬鹿にした物言いに、再びガイウスは苛つくも、かといってどうしたらいいか判断が付かずにその場に立ち尽くしてしまった。


「あなた、優柔不断なの?それとも臆病者?どちらでもいいけど、早くしなさいな」


 するとようやくここでガイウスが観念した。


「……いや、そのう、さっきはつい勢いで相手してやるって言っちゃったけど、君が強いって言い張るのは護身術か何かをやっているからなのか?もしそうなら俺は殴りかかればいいのか?でもはっきり言ってそういうのは俺の趣味じゃないんだよね。若い女性に殴りかかるなんてさ……だからなんでもいいんだけど、そっちから来てくれないかな?こちらからはちょっと行きづらいんでね」


 するとディアーナが肩をすぼめた。


「護身術なんてやってないわ。わたしが得意なのは魔法よ」


 するとこれを聞いてガイウスが破顔一笑となった。


「あっそう。そうなの~、魔法が得意なの~いや~奇遇だね。実は俺も魔法が得意なんだ。ていうか得意も得意の大得意。いやそれより上の超得意って感じかな」


「へ~、そうなの?でもわたしも超が付くくらい得意よ?」


「いやいやいやいや、俺の方が絶対に上だって。悪いことは言わないから止めときなよ」


 するとディアーナが肩をすくめて一つ溜息を吐いた。


「あらあら、随分と自信あるみたいね。でもわたしもあるのよ。だからとりあえず手合わせしてみましょうよ。そうすれば自ずと判ると思うから」


 すると今度はガイウスが肩をすくめた。


「まあね。じゃあ相手してあげるからかかってきなよ?」


 ガイウスは半笑いしながらディアーナに対して手招くような仕草をした。


「いいわ。じゃあ、こちらからいくわよ?」


 ディアーナの目がにわかに妖しく光った。


 だがガイウスは気づかず、依然半笑い状態のままであった。


「ああ、いつでもどうぞ」


 すると、ガイウスが言い終えるより先にその視界が突如赤く揺らめいた。


 ガイウスは初めその意味が判らず、自分が突然めまいでも起こしたのかと思ったものの、次第に全身を覆う或る(・・)感覚を知覚しはじめたのだった。


「……あちっ!……おわっ!あちっ!……くそっ!あっついわ!!」


 ガイウスは全身を炎で焼かれていることをようやく理解した。


 そしてそのあまりの熱さから逃れるために瞬時に上空高くへと飛び上がり、その風圧でもって炎を消し去ろうとした。


 だが炎の勢いはまったく衰えることがなかった。


 ガイウスは熱さに身もだえしつつも上空で急ブレーキをかけて立ち止まり、不審げに自らの身体を包む炎をまじまじと見たのだった。

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