第千十二話 順番
「気に入らないわね!フラン家の正統なる後継者にして現当主はこのわたしなのよ!なのに何でメルバが先なのよ!納得のいく説明をして欲しいわね!」
エルバはてこでも動かないといった雰囲気をビンビンに醸し出しながら怒声を張り上げた。
だがシェスターはこのエルバの態度を予想していたのか、眉一つ動かさなかった。
「理由は簡単だ。メルバの方が年長だからだ。勿論君がフラン家の現当主であることはわたしも知っている。だがこの館が出来た当時は後継者はまだ決まっていなかったはずだ。その後、君を正統なる後継者と万人が認めたわけだが、それはつい最近の出来事に過ぎん。故に当時の状況に遡って考え、年長順にしたというわけだ」
シェスターは先程のガイウスを見習ったのか、エルバを持ち上げるような言い方をした。
するとエルバは先程同様、すぐさま上機嫌となった。
「……あらそう?万人が認める後継者ね……よく判っているじゃない。そうね、確かにわたしが後継者に決まったのは最近のことだわ。うん、確かにそうだわ。この仕掛けが出来た当時は間違いなくその前ね。いいわ。そういうことなら納得よ」
エルバは何やら頬を緩ませ、にやつきながら人混みを掻き分け部屋へと向かって行った。
するとコメットもその後に続き、二人はすぐにシェスターたちの前へと進み出た。
「わたしが先でいいのよね?」
エルバが可愛らしい笑顔を残し、部屋へ入っていった。
「では、次は僕ということでいいんですよね?」
コメットがいつものように少々怖じ気づいた様子で言った。
「ああ、頼む」
シェスターが仄かな笑みを浮かべて言うと、コメットも顔をほころばせて部屋へと入っていった。
シェスターはその背を見送ると、ふいに横を向いた。
するとそこにはすまし顔のアジオがいた。
「では次にアジオ、入ってくれるか?」
突然の指名にアジオが心底驚いた表情を見せた。
「……えっ!?なんで僕が?……いやシェスターさん、どうぞお先に、僕は最後でいいんで……」
だがシェスターは微動だにすることなく言った。
「いや、君に入ってもらいたいのだアジオ。さあ、どうした?何か入れない理由でもあるのか?」
するとアジオが額に脂汗を浮かべ始めた。
「……いや、その……別にそういうわけではありませんが……」
「そうか。ならば入ってくれ」
「いや、そのう……なんでわたしが先に入らないといけないんでしょうか?他の人でもいいじゃありませんか……」
アジオの汗はもはや額だけにとどまらず、顔全体に玉のように吹き出していたのであった。




