第千十話 経験と勘
「ふ~ん、まあ良く知っているシェスターさんがそう言うのなら……」
ガイウスは不承不承ながらもシェスターの話しに納得しかけた。
だが、そこで或る事に気付いて納得するのを思いとどまった。
「でもさ、ならなんでメルバのところへは行かなかったんだろう?エルバが嫡子だから?エルバが財産の多くを受け継いだからなんじゃないの?」
するとシェスターが笑みを浮かべながらかぶりを振った。
「いや、おそらくだがアジオは最初にメルバと会っているはずだとわたしは思っている」
ガイウスは驚き、目を大きく見開いた。
「……そうなの?最初にってことはエルバの従者になる前にってこと?」
「そうだ」
「それは……何かそう確信することでもあったの?」
するとシェスターが力強くうなずいた。
「ああ、我々がメルバのいるルーボスへ向かうとなった時、アジオはルーボスへの行き方や、ルーボスの町について異常なまでに詳しかったのだよ」
「ふ~ん、なるほどね。でもそれはルーボスへ行ったことがあるってだけで、メルバと面識があるってことにはならないんじゃない?」
「まあ、それだけならば、そうなるな」
「と言うことは、他にも怪しいことがあったんだね?」
「そうだ。メルバと始めて会った際、あのおしゃべりな男が、ほとんど一言も発さなかったのだ。不自然だとは思わんか?」
「う~ん、たしかにそれは不自然だね。でも決定打って程ではないんじゃないの?」
するとシェスターが静かにうなずいた。
「そうだな。なのでわたしもあくまで、おそらくと言ったのだ。もっともわたしの中ではほぼ確信に近いがな?」
「それは……勘かな?」
ガイウスが顔を下げ、上目遣いに探るように言った。
するとシェスターが、軽く首を横に傾けて少々自信ありげに言った。
「勘と経験によるものだな」
「う~ん、てことは……当たってそうだね?」
「どうかな?こればっかりは判らないな」
するとガイウスがからかうような笑みを浮かべた。
「またまた~、絶対に近い自信があるくせに~、どうかな?こればっかりは判らないな……って何を言っちゃってんのよ~」
ガイウスはシェスターの声音を真似て言った。
シェスターは苦笑し、困ったような表情となった。
「からかわないでくれよガイウス君。本当にそこまでの絶対的な自信があるわけじゃないんだからな」
「へえへえ、じゃあそういうことにしておきましょうかね~」
ガイウスは変わらずからかうように言った。
シェスターは仕方なく諦め、困ったような顔でポリポリと額をかくのであった。




