第千八話 アジオの思惑
「そうだな。差別を隠している分、たちが悪いと言えるだろうな。それはつまり、差別を問題化する気がないということだからな」
シェスターは、心底嫌そうな顔をしてそう言った。
「表に出なきゃ問題化できないもんね?なのに公には差別がないと言い切っちゃってるってわけだ。ローエングリンは」
「そうなのだ。ゼクス教の名の下に、差別のない国家体制を築き上げたと高らかに謳っているのだよ。ローエングリンは」
「は~、そりゃだめだ。確かにシェスターさんの言う通り、たちが悪いね。それじゃ問題があっても決して顕在化出来ないもんね」
するとシェスターが大きくうなずいた。
「そう。だからアジオは名乗り出たところで決して遺産を受け取ることが出来ないというわけなのだよ」
するとここでガイウスが首を傾げた。
「……となると、なんでアジオはコメットに近づいたんだ?……いや、その前にエルバか……先にエルバの手下になって、で、その後コメットの所へ行ったんだっけ?」
「そうだ。だが彼が四人目だとすると、コメットと出会ったのはエルバの命によるものではなく、彼がそうなるように仕向けた可能性が高いな……」
「実際そうでしょ。偶然エルバが命じたなんて有り得ないよ。そうなるように仕向けたのに決まってる」
「うむ。だが……」
そこでシェスターが言い淀んだ。
するとガイウスがシェスターの言葉を引き継ぐように言ったのだった。
「何故アジオはエルバたちに近づいたのか?……でしょ?」
シェスターは重々しくうなずくと、ゆっくりと口を開いた。
「うむ。彼らに近づいたところで遺産を受け取れるわけではない。ならば近づいた理由は別にあるはずだ……」
「他の三人をまとめて殺せば遺産は手に入るんじゃない?」
ガイウスの物騒な意見に、シェスターがかぶりを振った。
「いや、それでも司法は認めまい。おそらくその様な事態になったらフラン元大司教の遺産は国庫に納められることになると思う」
「徹底してるね~そうまでして差別したいのかね~」
「するだろう。差別主義者とはそういうものだ」
「となると……アジオの目的は?」
するとシェスターが指で床を指し示した。
ガイウスは意味が判らず、首をひねった。
「なに?どういう意味?」
するとシェスターが口角を上げてニヤリと笑った。
「フラン元大司教の通常の遺産、金銀財宝の類いには、彼は興味が無いのだろうと思う。だが……地下のあれに関してはそうではないのだろうと思っている」
するとガイウスが納得の表情となった。
「イリスの棺か……ということはアジオは隠し財宝の正体を知っていたってこと?」




