第千六話 四人目の正体
するとシェスターがニヤニヤしながら口を開いた。
「ふむ。だが初めに室内に入った際、エルバとコメットも同時に入ったが、仕掛けは作動しなかった。その後しばらくしてアジオがメルバたちを連れて室内に入った途端、仕掛けは作動したんだ」
「てことは……兄弟の内、三人が揃ったところで作動したってわけだ。四兄弟なのに三人か……まあ一応過半数ではあるけどね。なんかしっくりこないな……」
するとそこでガイウスがハッとした顔を見せた。
「もしかして!実は四人目なんていないってことはないかな?」
ガイウスが勢い込んで言った。
だがシェスターは笑みを浮かべたまま首を横にゆっくりと振った。
「いや、四人目はいると思う。しかも……」
シェスターは一旦ここで言葉を区切ると、たっぷりと間を置いてから、千両役者が見得を切るようにして言ったのであった。
「その四人目はこの別荘の中にいる」
するとガイウスが大きく目を見開いて驚いた。
「そういうことか!実は部屋の中に四人が揃っていたのか!だから仕掛けが反応したんだ!」
シェスターは大いにうなずき、満面の笑みとなった。
だがガイウスは或る事に気付き、ふっと真顔へと戻った。
「でもその四人目って一体誰なの?シェスターさんはその見当が付いてるの?」
シェスターはまたも力強くうなずくと、自信ありげに微笑んだのだった。
「ああ、だいたいの見当は付いている。四人目たり得るのは彼くらいしか思いつかないのでな」
「さすがだね。で、一体誰なの?」
勢い込んで問いかけるガイウスであったが、対するシェスターは冷静そのものであった。
一旦片手を上げてガイウスを制すると、ゆっくりとした動作でもって口を開いたのであった。
「四人目は……わたしはおそらくアジオだと思っている」
シェスターの推理を聞いたガイウスが、天井を見上げながらアジオの顔を思い出そうとした。
「……アジオね……あの軽薄そうな兄ちゃんか……」
ガイウスのアジオに対する人物評に、シェスターが思わず苦笑いを浮かべた。
「軽薄そうか……君にはそう見えるのかね?」
「まあね。でも……彼が四人目となると、その軽薄さの意味が多少変わってくるかな?」
シェスターはうなずき、真顔に戻って静かに口を開いた。
「ああ、そうだろうな。君の言うところの軽薄さというのは、アジオにとってはおそらく仮面なのだろうからな」
「仮面ね……確かに言われてみれば、全てが嘘くさく思えてくるね?」
ガイウスの容赦ない言い草に、シェスターは再び苦笑いを浮かべるのであった。




