郷に入っては郷に従え
ガジュル・レリフ様
じーじ、これを読んでるってことは、やっぱりあたしのベッド売ろうとしたんだね。あ、いいんだよ、ベッドは売っちゃって。ただ、じーじなら絶対売るだろうなって思って、あそこに手紙を隠しただけだから。
さて、なんであたしが、じーじに手紙を書いたかと言いますと。
実はあたし、この世界の人間じゃありません。更に言えば、本来は十一歳じゃなくて、十八歳です。なんでだか、こっちの世界に来るときに、若返っちゃったみたいで。
まあ、それは別に信じなくてもいいけど、あたしを拾ってくれて、ありがとう。
あの時は、何が起きたのか理解できなくて、途方に暮れてたから、じーじに声を掛けてもらったときは、ほんとに嬉しかったんだよ?
それから、養子にしてくれて、ありがとう。
実はあたし、前の世界では孤児だったから、まさか自分に家族ができるとは思わなくて……。だから、じーじにはものすごく感謝してます。
じーじと過ごしたこの一年間は、絶対に忘れないよ。いや、忘れられないよ。
まさかご飯に、十日に一度は毒が仕込まれるとは、思いもしなかったからね。いやー、初めて毒で苦しんだときのことは今でも鮮明に思い出せるよ。ほんとに死ぬかと思った。
まぁそのお陰で、今ではある程度の毒なら耐性が付いたわけだけど。
それから護身術。最低限、自分の身を守れるようになるためだ、ってじーじは言ってたけど、あれはもう護身術の域を越えてたよ?野生の熊と対峙して、無傷で勝利しちゃう乙女ってどうよ。
あとあれ。王族や貴族のあれこれ。彼らの裏事情だけじゃなく、弱味まで教えられるとは思わなかった。じーじその話するとき、目ぇきらきらしてて、とっても悪い顔になってたの気づいてた?
あー、でもじーじ、あたしが毒で苦しんでるときも、怪我した時とかも、すっごく嬉しそうな顔してたもんね。あのね、あたしの元いた世界では、そーゆう人の事をドSって言うんだよ。
まぁそれは置いといて、王族や貴族相手に優位に立つことのできる手札を、頭に叩き込まれたわけだけど、あたしはそれが必要になるような事態に、巻き込まれないことを強く願うよ。じーじ、今絶対舌打ちしたでしょ。
じーじのお陰であたしは、この世界で生きていく事ができたわけだけど。
毒に慣らされたり、熊と闘わせられたり、知りたくもないお偉いさんの情報を聞かされた時は、じーじはあたしの事を暗殺者にするつもりだろうか、と本気で悩んだけど。
だけど、全てあたしが生き残れるように、っていう思いからだって知ったときは、少しだけ感謝したよ。少しだけね。だってどう考えてもやりすぎでしょ。
じーじに突然後宮に行け!だなんて言われたときはビックリしたけど、仕事だと思うことにして、頑張ってくるね。じーじのところに、ちゃんとお金、入るんでしょ?
罪悪感なんて感じなくていいからね。あたしを養子にしてくれた、じーじへの恩返し。
大丈夫だよ。あたし見た目八歳くらいだし。目立たないようにひっそり後宮に生息するつもりだから。厄介な陰謀に巻き込まれることもないだろうし。もしあっても、じーじに仕込まれたからね。
あ!あと、イルが後宮でもこっそり護衛してくれるって。イルがそばにいるなら安心でしょ?
と言うことだから、じーじは安心して隠居しててね。あたしは後宮で、ひっそり暮らしてるから。
最後に、もしまた誰かを拾ったら、あたしの時のような育てかたは、絶対にしちゃダメだよ?
それではお元気で。
シュリ・レリフ
連載書こうかなぁ。でもその前にお試しで。
って書いた短編です。
もしかしたら連載書くかもです。