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団扇に描かれた文字は

作者: 遥(はるか)奏汰(かなた)
掲載日:2026/09/07

大掃除の途中で見つけてしまった、黒歴史の遺物。

青くて痛くて、けれど間違いなく命がけで熱狂していたあの日々が、一枚の団扇とともに鮮やかによみがえります。

ピンクの団扇だ 懐かしい団扇だ

ずっと抽斗ひきだしの奥にしまってあった。見つけたのは2年ぶりだ。

わたしは甲斐性なしと言われるだけあって、抽斗のお掃除は、ついつい後回しになっていたのだ。

 せっかくだから抽斗の整理でもするかと思い立った時であった。

 ふと、団扇に描かれた文字に目がとまった。もともと描かれていた文字だとは到底思えない。明らかにわたしの稚拙な字

体温の残る掠れた文字は

遠い日のわたしが残した SOS

「ひみつ」と書かれた言葉の先を

なぞる指先が 微かに震えた

何故こうまで震えるのだろう?

「ひみつ」と書かれた言葉の先を

なぞる指先が 微かに震えた

何故こうまで震えるのだろう?

――そりゃあそうだ。だってこれ、私が昔、大好きな推しアイドルに向けて血眼で作成した『ファンサ祈願団扇』なんだから。

「……うそでしょ……黒歴史すぎる……」

文字の続きを凝視する。

そこには、蛍光ピンクのペンで、痛々しいほど純粋な愛が書き連ねられていた。

『ひみつ♡ ウインクして! 一生のブシ(武士?)にして!』

漢字を間違えている。「僕のウインクは君だけのひみつ」という神対応をもらって歓喜し、家で一人で悶絶していたあの夜の熱量が、恐ろしいほどのリアルさで蘇ってくる。

「思い出した……私、このライブの翌日に恥ずかしすぎて正気を失い、この団扇を封印したんだ……」

胸を突くのは、懐かしさと、あまりの痛々しさにのたうち回りたくなるような強烈な悶絶。

あの頃の私は、世界で一番惨めで、世界で一番幸せだった。

お金もなくて、未来も不安で、毎日ががむしゃらで寂しくて……それでも、あの輝くステージだけが私の全世界だったのだ。

「あはは……なんだよこれ……」

込み上げてきたのは、おかしくて、切なくて、どうしようもない笑いと涙だった。

大人になった今の私は、あの頃みたいに何かに全力で狂うことも、誰かのウインクひとつで救われることもなくなった。冷めた大人になって、賢く生きられるようになったはずなのに――どうしてだろう。

胸の奥が、ぎゅっと締め付けられるように痛い。

もう二度と戻れない、あの青くて、痛くて、最高に楽しくて寂しかった日々。

熱に浮かされていた幼い私が、団扇の裏で必死に叫んでいた。

『わたしを わすれないで』

涙がポロポロと溢れて、ピンクの文字の上に落ちた。

ダサくて、恥ずかしくて、愛おしい、私の宝物。

「忘れるわけないじゃん……バカ……」

私は鼻をすすりながら、埃っぽい部屋でひとり、抱きしめるように団扇を強く胸に押し当てた


ここまでお読みいただき、ありがとうございました。

押入れや抽斗の奥からふと出てくる「昔の自分の熱量」って、恐ろしいほどの恥ずかしさと同時に、どこか愛おしく思える瞬間がありますよね。

大人になるにつれて失ってしまう青さや情熱と、それらを肯定する優しさをテーマに描いてみました。読者の皆様にとっても、かつての自分の「宝物」をふと思い出すような、ささやかな温かさが届いていれば幸いです。

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