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BANされた俺、なぜかゲーム運営側で働く ~VRMMORPGにクソ真面目に行政法をぶち込んでみました~  作者: Altis
第3章 閾の境界― The Boundary of the Gate ― 第1部 声加ふ

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39/61

門前ーBefore the Gateー





 次のイベントまで、残り二日。

 そう表示されていた数字は、気づけば残り三時間になっていた。

 



 白い管理空間の奥で、第漆転送門の負荷予測がじわじわ上がっている。




【第漆転送門負荷予測】

現在値:七二%

予測最大値:九四%

危険域到達見込み:イベント開始四〇分前


参照ログ:

・転送門基礎負荷

・イベント参加予定数

・商人搬入予定

・救護導線予定




「……じわじわ来るの、やめてほしいな」


「予測値です」


 アイはいつも通りだ。


「急に来る方がよいですか」


「よくない」


「では、じわじわ来ます」


「来なくていい」


 一瞬だけ、アイが笑ったように見えた。


 ……気のせいかもしれない。


 作業板の下には、前に増えた四つのボタンが並んでいる。


【転送門一時封鎖】

【行先制限】

【優先導線設定】

【緊急転送】


 見慣れたくないのに、もう見慣れてきた。

 それが嫌だった。


 俺は事前対応案を開いた。




【事前対応案】

対象:第漆転送門周辺イベント

目的:転送事故および広域混乱の防止

発動候補:

・代替導線表示

・行先制限

・優先導線設定

・一時封鎖

解除条件:

・危険域解除

・退避導線確保

・救護導線復帰




「一応、準備はしたが、できれば使いたくない」


「はい」


「でも、使うことになるんだろ」


「可能性が高いです」


「嫌な予報だな」


「必要な予測です」


 アイが地図を開く。


 第漆転送門の周りには、すでに人の流れができていた。


 イベント参加者。

 観光勢。

 商人。

 救護ギルド。

 警備担当。

 初心者を連れた案内役。

 ただ見に来ただけのプレイヤー。

 みんなが同じ門に向かっている。


 便利な門は、みんなにとって便利だ。


 だから詰まる。


 地図の端には、《蒼白の観測者》の公開予測が並んでいた。


「シオンのところか」


「はい」


「あそこ、静かに見るの好きだな」


「観測ギルドです」


「褒めてるんだよ」


「そのようには聞こえませんでした」


「失礼な」


 人の流れ。

 待機列。

 搬入列。

 観戦者の動き。


 そういうものを静かに見て、記録するギルド。


 観測は、静かに行うものですから。


 ……やっぱり、少し面倒なタイプかもしれない。


「事前通知は出てるんだよな」


「はい」


 アイが通知ログを表示する。




【全体通知】

本日の大規模イベントでは、第漆転送門周辺の混雑が予測されています。

状況に応じて、第漆転送門の一時停止、行先制限、優先導線設定を行う場合があります。

発動時は、理由、時間、代替導線を表示します。

表示された案内に従って移動してください。




「硬いけど、まあ分かる」


「許容範囲です」


「またその言い方」


「完全に安全な文はありません」


「分かってきたのが嫌だ」


 関係者への通知も、すべて送信済みになっている。



【関係者通知】

救護ギルド代表:送信済

警備担当代表:送信済

イベント維持担当:送信済

商人ギルド連絡板:掲示済

露店管理連絡板:掲示済

初心者案内所:掲示済

転送門保守班:送信済




 露店管理連絡板。


 《ひよこ商会》。


 ミナトの名前は、個別通知欄にはない。

 原則通り、連絡板での通知。

 それは間違っていない。


「個別には出せないんだよな」


「対象範囲が広いため、困難です」


「分かってる」


 前に関わったからといって、ミナトだけを特別扱いはできない。

 でも、名前を知っていると、どうしても見えてしまう。

 画面の向こうで、ちゃんと通知を読んでいるかもしれない。

 そして今日、門が止まるかもしれない。


 第漆転送門の負荷表示が一段上がった。



【第漆転送門負荷】

現在値:八一%




「早くないか?」


「予測より五分早いです」


「嫌な誤差だな」


「現時点では誤差範囲です」


「現時点では?」


「はい」


 余計な言葉がついた。

 地図の第漆転送門が黄色く点滅する。



【警戒域接近】

転送待機列:増加

通常導線:混雑

救護導線:遅延傾向

商人搬入列:停滞



「まだ止めてないのに、もう搬入が詰まってる」


「止めていなくても、混みます」


「それはそう」


 アイが対応候補を表示する。



【対応候補】

一 代替導線表示

二 行先制限準備

三 優先導線設定準備

四 第漆転送門一時封鎖準備



「まず代替導線」


「はい」



 俺は【代替導線表示】を選んだ。


 実行ではない。


 案内表示だ。


 それでも、指は一瞬止まった。


 アイは何も言わなかった。


 俺は押した。




【代替導線表示】

第漆転送門周辺が混雑しています。

北門・西門・港湾門への迂回を推奨します。

救護・警備・イベント維持担当は、専用導線表示を確認してください。



 地図上に青い線が増える。



 北門へ。

 西門へ。

 港湾門へ。



 赤い流れの先端が、わずかに分かれた。


「動いた」


「はい」


 第漆転送門へ向かう線が少しだけ細くなる。


 下がるかもしれない。


 そう思った直後、表示が更新された。



【第漆転送門・現在負荷】

通常域上限まで、残り一四パーセント。

待機列伸長中。

救護導線への接触を確認。


「さっき、残り十七じゃなかったか」


「二分前の表示です」


「増加速度は」


「直前までの推移を上回っています」


 門の周辺図が開く。


 中央に、第漆転送門。


 東側にはイベント参加者の列。

 南側には商人ギルドの搬入待機列。

 その間を、救護用の青い導線が伸びている。

 少し前まで、三本の線は分かれていた。


 今は、赤と黄色が青へ食い込み始めている。


「イベント開始まで」


「二十三分です」


「門を閉じるには早い」


「通常であれば、そう判断されます」


「通常であれば、な」


 青い導線の一部が黄色へ変わった。



【救護導線】

通過時間増加。

通常比一・八倍。



 すぐに通信が入る。



【救護ギルド通信】

第漆転送門周辺で搬送遅延が発生しています。

負傷者搬送用の導線確保を求めます。


【警備担当通信】

一般参加者と搬入列が混在。

門前広場での誘導が困難になりつつあります。

追加案内または流入制限を要請します。


【商人ギルド連絡板】

搬入遅延が発生しています。

出店準備時刻に影響するため、優先通行の基準を明示してください。



「一斉に来るなよ」


「状況は一斉に進行しています」


「そうだな」


 閉鎖以外に、まだ打てる手はある。


「案内を分ける。商人搬入は西門を優先。一般参加者は港湾門にも振る」


「港湾門は水上移動区間を含みます」


「利用率は低いかもしれない。それでも出す」


「反映します」




【代替導線案内・更新】

一般参加者:

港湾門及び西門の利用を推奨。

商人搬入:

西門側搬入口への迂回を推奨。

第漆転送門:

混雑状況により、流入制限を行う場合があります。




「まだ強制はしない」


「はい」


「まずは自分で動いてもらう」


 東側の赤い帯が、わずかに細くなった。

 西門と港湾門にも流れが生まれる。

 だが、港湾門側はすぐに止まり、東側が再び膨らんだ。




【第漆転送門・現在負荷】

通常域上限まで、残り九パーセント。



「どれだけ迂回した」


「一般参加者の一部です。商人搬入列の大半は移動していません」


 《蒼白の観測者》の公開予測も更新される。



【《蒼白の観測者》公開予測】

第漆転送門東側待機列:

直近予測を上回る速度で伸長中。

商人搬入列と観戦者列:

分離不足を確認。

港湾門経由:

搬入者の利用率は低位で推移する見込み。



「もう直してきたか」


「はい」


 救護は、搬送路を空けろと言っている。


 商人は、時間内に荷物を運ばせろと言っている。


 警備は、列を分けろと言っている。


 誰かを先に通せば、誰かが遅れる。


 全員に理由があった。


「入口を絞る。出口は維持。救護転送を優先」


「流入率を指定してください」


「五〇パーセント」


「門前待機列はさらに伸びます」


「中で詰まらせるよりはいい。実施」


「はい」




【第漆転送門】

入口流入率を五〇パーセントに制限。

出口及び救護転送を優先。




 赤い流入線の動きが鈍る。

 代わりに、門前の待機列が太くなった。




【商人ギルド連絡板】

流入制限により搬入が停止しています。

出店準備への影響が生じているため、対応方針を示してください。


【一般参加者通信】

急に列が進まなくなった。

説明が足りない。


【一般参加者通信】

優先対象の選定根拠を示してください。


【一般参加者通信】

解除予定時刻と判断基準を示してください。




 怒っている言葉。


 困っている言葉。


 答えを求めるだけの言葉。


 全部、同じ欄に積み上がる。


「解除予定は」


「現状では確定できません」


「判断基準を出す。負荷率、救護導線の通過時間、待機列の分離状況」


「確認画面を表示します」




【流入制限・解除基準】

以下を継続確認。

・転送門負荷が通常域内へ低下

・救護導線通過時間が通常比一・二倍以下へ回復

・一般待機列と搬入列の分離を確認


解除予定時刻:

未定



「送信」


「実行します」


 確定していない時刻は出せない。


 なら、何を見て判断するかは出す。


 その間にも数字は動く。



【救護導線】

通過時間、通常比二・一倍。


【第漆転送門・現在負荷】

通常域上限まで、残り五パーセント。



「制限してるのに上がるのか」


「門内部の処理滞留が解消していません」


「救護を完全優先」


「一般転送及び搬入転送の処理速度がさらに低下します」


「構わない。救護を通す」


 作業板に一覧が出る。



【優先導線設定】

救護:優先

警備:優先

イベント維持:優先

緊急搬送:優先

事前登録搬入:優先

通常搬入:対象外

臨時便:対象外

露店補充:対象外




「ミナトは」


「通常搬入に該当します」


「だよな」


 優先対象を広げすぎれば、優先ではなくなる。


 救護が詰まれば、本当に危ない。

 警備が動けなければ、混乱が広がる。

 イベント維持担当が止まれば、別の事故が起きる。

 それでも、名前だけは消えてくれなかった。



「実行」


「はい」




【優先導線設定】

実行しました。




 地図の一部が金色に変わる。


 救護。

 警備。

 イベント維持の短縮ルート。


 そこだけは、少し流れが戻った。



【救護導線】

通過時間、通常比一・九倍。



「第漆転送門は」


「上昇を継続しています」



【第漆転送門負荷】

現在値:九五%

危険域到達


 赤い表示になった。


 白い管理空間なのに、作業板だけが赤い。


 音はない。


 でも、うるさかった。


 数字がうるさい。


 通知がうるさい。




【危険ログ】

救護導線遅延:継続

退避導線:一部閉塞

転送先座標競合:予備処理発動

高負荷転送要求:同時発生



【救護ギルド通信】

搬送対象一名。

第漆転送門付近で待機中。

導線確保を再要請します。


【警備担当通信】

イベント中心区画への流入が継続しています。

門前誘導のみでは分離困難です。



「行先制限」


「対象を指定してください」


「第漆転送門からイベント中心区画への直接転送」


「例外対象は」


「救護、警備、イベント維持、緊急搬送。一般参加者と通常搬入は周辺区画へ振る」


「転送後の徒歩移動が増加します」


「中心区画で詰まるよりはいい。解除条件は、座標競合の解消、救護導線の回復、退避導線の確保」


「実行します」




【行先制限】

対象:

第漆転送門からイベント中心区画への直接転送


制限対象:

一般参加者

通常搬入

臨時便

露店補充

例外:

救護

警備

イベント維持

緊急搬送

代替:

周辺区画への転送及び地上導線を案内

理由:

転送先座標競合

救護導線閉塞のおそれ

退避導線の確保



【行先制限】

実行しました。




 イベント中心区画へ伸びていた赤い線が途切れ、手前から複数に分かれた。


「中心区画」


「流入率、低下」


「座標競合」


「予備処理数、減少」


「救護」


「通常比一・六倍まで回復」


 効いた。

 そう思うより先に、新しい警告が開いた。



【周辺区画警告】

西側周辺区画:混雑

北側周辺区画:待機列発生

地上代替導線:通行速度低下

港湾側到着区画:搬入列との接触を確認


 散らした人間が、別の場所で止まった。


「警備を西側と北側へ。港湾側は搬入列と一般参加者を分ける。初心者案内所にも周辺区画の案内を出す」


「門前の誘導人数が減少します」


「入口は制限中だ。実施」


「はい」


 俺が言うたびに、アイが処理する。


 表示が変わる。


 線が動く。


 ログが更新される。


 止める。

 分ける。

 絞る。

 優先する。

 行先を変える。



【第漆転送門負荷】

現在値:九六%



「上がった?」


「はい」


「行先制限は効いてる」


「転送先座標競合は低下しています」


「入口も半分にした」


「はい」


「それで、どうして上がる」


「門内部の処理滞留が継続しています。また、行先変更処理による再計算が発生しています」


 対策をするためにも、処理がいる。


「再計算が終われば下がるか」


「現時点では確定できません」


 可能性。


 予測。


 現時点では。


 どれも間違っていない。


 どれも、今ほしい答えではない。



【第漆転送門前】

搬送待機発生。


【救護ギルド通信】

優先導線設定後も、第漆転送門前で搬送待機が発生しています。

このままでは退避対象者の搬送が遅延します。


【緊急退避導線】

閉塞のおそれ



「救護転送をさらに優先」


「既に最高優先度です」


「入口をもっと絞る」


「二五パーセントまで低下可能です。ただし、門前待機列は急速に伸長します」


「現在の待機列」


「一般参加者列、二千百四十七。搬入列、六百八十二」


「二五パーセントまで下げる」


「実行します」



【第漆転送門】

入口流入率を二五パーセントに制限。

出口及び救護転送を最優先。



 赤い流入線がさらに細くなる。


 門前待機列は、逆に膨らんだ。




【一般参加者通信】

列が完全に止まった。


【一般参加者通信】

行先まで変えられている。

イベントに参加できるのか。


【商人ギルド連絡板】

行先制限及び流入制限により、通常搬入が継続不能となっています。


【露店管理連絡板】

初心者露店市の搬入遅延を確認。

開始時刻への影響を確認中。



 ひよこ商会。


 名前を開かなくても分かった。


 開かなかった。


 今は、見る場所が違う。



【救護導線】

通過時間、通常比一・七倍。




「下がってない」


「一時的に改善後、再上昇しています」


「退避導線」


「一部閉塞」


「座標競合」


「低下しています」


「門の負荷」


「上昇を継続しています」


【第漆転送門負荷】

現在値:九七%


 赤い表示の下に、実施済みの項目が並んでいる。



【代替導線表示】

実施済

【入口流入制限】

実施済

【優先導線設定】

実施済

【行先制限】

実施済




 判断するたびに、別の場所が詰まった。


 ひとつ空ければ、ひとつ塞がる。


 流れを分ければ、その先に列ができる。


 入口を絞れば、門前に人が溜まる。


 救護を優先すれば、一般転送が止まる。


 行先を制限すれば、周辺区画が詰まる。


「まだ取れる措置は」


 アイが対応候補を更新する。


 表示は変わらなかった。


「アイ」


「確認中です」


 どの項目にも、実施済みの表示がついている。


「北門への案内を増やす」


「移動距離が長く、利用率は低位です」


「それでも強める」


「実行します」


「西門の搬入枠を増やす」


「西門側も警戒域へ接近しています」


「港湾門は」


「水上区間の処理能力が不足します」


「警備を増やす」


「門前広場から追加で移動可能な人数はありません」


「イベント維持担当の導線を短縮」


「既に最短です」


「救護だけ別経路へ」


「第漆転送門を経由しない場合、搬送時間が増加します」


「……そうか」


 ひとつずつ、消えていく。


 できない理由がある。


 使えない理由がある。


 後回しにできない理由がある。


 それでも、数字は待たない。




【第漆転送門負荷】

現在値:九八%




 作業板の中央に、新しい表示が開いた。




【限界負荷接近】

転送事故発生率:上昇

退避導線閉塞予測:上昇

救護遅延:継続

内部処理滞留:解消見込みなし




 その下に、赤いボタンが一つだけ残った。




【転送門一時封鎖】




 押さなくて済むように、準備した。


 案内した。


 分けた。


 絞った。


 優先した。


 行先まで止めた。


 それでも。


 赤い数字は止まらなかった。







【第漆転送門負荷】

現在値:九九%







 白い管理空間に、音はない。


 でも、うるさかった。


 救護要請も。


 商人の訴えも。


 参加者の不満も。


 全部見えている。





 なのに、次に押せるものは、一つしかなかった。



挿絵(By みてみん)


【アイの補足メモ】


今回の第漆転送門は、現実にそのまま対応する施設があるわけではありません。


機能を分けて考えると、


・多数の利用者が同じ入口へ集中する

・一つの施設から複数の目的地へ移動する

・人だけでなく、物資や救護対象も通過する

・入口だけでなく、到着先の混雑も処理しなければならない

・救護、警備、イベント維持など、優先すべき移動が存在する


という性質を持っています。


そのため、イメージとしては、


**道路と空港を組み合わせたような交通インフラ**


に近いものです。


今回、主人公は最初から転送門を封鎖したわけではありません。


まず事前に混雑の可能性を通知し、代替となる転送門を案内しました。


それでも流入が止まらなかったため、入口を制限し、救護や警備を優先し、さらに転送先を周辺区画へ変更しています。

現実の道路でも、危険を防止し、交通を安全かつ円滑に保つため、人や車両の流れを制限することがあります。


ただし、根拠となる制度は一つではありません。


まず、道路法第四十六条は、道路の破損などによって交通が危険となった場合や、道路工事のためやむを得ない場合に、道路管理者が区間を定めて通行を禁止または制限できると定めています。


緊急の必要がある場合には、道路監理員が必要な限度で一時的な通行禁止や制限を行うこともできます。


これは、


**道路という施設そのものを安全に使える状態に保つための規制**


です。


今回の転送門でいえば、転送門内部の処理が滞留し、事故が発生するおそれが高まったため、施設管理者として門を止める部分に近い考え方です。


もっとも、道路法第四十六条は、単なる混雑一般を理由に自由に道路を止められるという規定ではありません。


道路の破損などによる危険や、工事の必要性が前提となります。


今回の転送門では、単に人が多いだけでなく、


・転送先座標の競合

・退避導線の閉塞

・救護搬送の遅延

・内部処理の滞留

・転送事故発生率の上昇


が確認されています。

したがって、「混んでいるので止める」というより、


**施設の処理能力を超え、利用を続けること自体が危険になったため止める**


という構造です。


一方、道路上の人や車両の流れを整理する規制には、道路交通法が関係します。


道路交通法第四条は、道路における危険を防止し、交通の安全と円滑を図るため、都道府県公安委員会が通行禁止その他の交通規制を行えることを定めています。


また、同法第六条は、警察官などが現場の状況に応じて交通を整理し、一定の場合に通行を禁止または制限する仕組みを定めています。


道路法が、


**道路という施設を管理する制度**


だとすれば、道路交通法は、


**その道路を利用する人や車両の流れを管理する制度**


という違いがあります。


今回の処理に当てはめると、


・転送門の危険を理由に門を一時封鎖する

 →道路法的な施設管理


・入口を絞る

・行先を変える

・一般利用者を迂回させる

・救護や警備を優先する

 →道路交通法的な交通整理


という二つの性質が含まれています。


そして、第漆転送門には空港に近い面もあります。


空港では、目の前にいる利用者だけを見ればよいわけではありません。


・出発する航空機の数

・到着する航空機の数

・滑走路や誘導路の処理能力

・到着先の混雑

・航空機同士の間隔

・緊急性や燃料などの個別事情


を見ながら、全体の流れを調整します。


航空法第四十七条は、空港等の設置者に対し、施設の機能を確保するための基準に従って管理することを求めています。


その基準には、施設の点検や維持管理だけでなく、自然災害、航空事故など、空港の機能を損なうおそれのある事象が発生した場合の措置も含まれます。


今回の転送門についても、単に「門が動いているか」だけでは足りません。


救護対象を安全に通せるか。


転送先で人が重ならないか。


退避経路が残っているか。


周辺区画へ人を移した結果、別の場所で事故が起きないか。


そこまで含めて、施設の機能を維持する必要があります。


また、現実の航空実務には、**航空交通流管理**という考え方があります。


到着機が一つの空港へ集中すると、空港周辺で航空機が着陸の順番を待つことになります。


そこで、混雑が予測できる場合には、航空機を出発地で待機させ、目的地へ流れ込む航空機の数を調整します。


目的地の上空まで飛ばしてから止めるのではなく、その手前で流入量を抑えるわけです。


本文で主人公が行った、


> 「入口を絞る。出口は維持。救護転送を優先」


という判断は、この航空交通流管理に近い構造です。


入口から入る人数を減らしても、門の前には待機列ができます。


出発を遅らせれば、出発地側に航空機が残るのと同じです。


しかし、処理能力を超えた人数を内部や到着先へ送り込むよりは、安全を確保しやすくなります。


ここで重要なのは、


**制限を行えば、混雑そのものが消えるわけではない**


ということです。


入口を絞れば、入口の外に列ができます。


行先を変更すれば、変更先が混みます。


救護を優先すれば、一般利用者や通常搬入が遅れます。


主人公は問題を消しているのではありません。


事故につながる危険を避けるために、


**どこへ負担を移すかを選んでいます。**


そのため、今回の措置には、行政法上の比例原則に近い考え方も表れています。


比例原則とは、目的を達成するために必要な範囲を超えて、相手の自由や利益を制限してはならないという考え方です。


案内だけで危険を防げるなら、入口を制限する必要はありません。


入口制限で足りるなら、行先まで制限する必要はありません。


行先制限で事故を防げるなら、転送門全体を封鎖する必要はありません。


そのため主人公は、


一 事前通知

二 代替導線の案内

三 入口流入制限

四 救護等の優先

五 行先制限

六 最後に一時封鎖


という順番で、より影響の小さい措置から試しています。


ただし、比例原則は、


「強い措置を取ってはいけない」


という原則ではありません。


弱い措置では危険を防げない場合には、より強い措置を取る必要があります。


今回、代替導線、流入制限、優先設定、行先制限は、すべて実施済みになりました。


それでも転送門の負荷は上昇し続け、転送事故と退避導線閉塞のおそれが高まっています。

この段階では、


「まだ止めなくてもよい理由」


より、


「止めなかった場合の危険」


の方が大きくなっています。


映像作品でイメージするなら、『踊る大捜査線』の「レインボーブリッジを封鎖せよ」に近い場面です。


もちろん、あちらは捜査上の封鎖。


今回は転送事故を防ぐための封鎖です。


目的も、法的な根拠も同じではありません。


ただし、


**大勢の移動を止めれば、多くの人に影響が出る。

それでも全体の安全のため、交通インフラを止めなければならない場合がある。**


という判断の形は共通しています。


利用者から見れば、


「なぜ通れないのか」


という問題です。


管理する側から見れば、


「なぜ今、止めなければならないのか」


という問題です。


今回は、主人公の視点が後者へ移りました。


なお、封鎖を決めても仕事は終わりません。


なぜ止めたのか。


誰を対象とするのか。


例外として誰を通すのか。


どの代替経路を使うのか。


どの条件が満たされれば解除するのか。


これらを示し、危険が解消した後は、必要のない制限を速やかに解除する必要があります。


止める権限があることと、


止め続けてよいことは、


同じではありません。


押すだけで終わるボタンなら、赤くする必要はありません。


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