竜の奉公と、光り輝く狂気
「……っ、ぎ、儀式完了……! エンマ様、お召し上がりください!」
エンマ城の食堂に、ガシャーンという轟音が響き渡った。
リュカ(元暗黒竜)が、震える手で差し出したのは、ひんやりとしたプリン。
……なのだが、彼女の「力加減」がわからず、銀のトレイはひしゃげ、スプーンは飴細工のように曲がっている。
「……リュカ。あんた、掃除も洗濯もいいけど、まずは『握力』を封印しなさい。部屋のドアノブがもう三つも取れてるわよ」
エンマは呆れ顔でプリンを口に運ぶ。
「も、申し訳ありません! ドラゴンの爪なら岩も砕けるのですが、この『人間の指』というやつは、あまりにも脆すぎて……!」
リュカは床に膝をつき、大袈裟に絶望する。彼女にとって、メイド修行はかつての「勇者との死闘」よりも過酷な試練だった。
「(……ビジュアルは完璧なんだが、中身が武闘派すぎるな)」
健二は手帳に【課題:繊細な動きの習得(ダンス基礎)】と書き込んだ。
リュカは真面目すぎるゆえに、健二の教える「基本姿勢」を、なぜか「暗殺の構え」だと勘違いして日々猛特訓している。
「……ところで、バルガス君。例の『聖教国』のスパイはどうなった?」
健二がドワーフの長に尋ねると、彼は顔をしかめて一枚の報告書を差し出した。
エルフの斥候たちが、国境付近で回収した代物だ。
「……あいつら、パナセアの連中は、ただの宗教国家じゃねぇ。『光の神の恩寵』と称して、人間に禁忌の強化魔法をかけてやがる。痛みを感じず、死ぬまで戦い続ける『光の兵士』だ」
健二は報告書を読み進める。
【聖教国パナセア:勢力情報】
教義: 「人間こそが万物の霊長であり、それ以外(亜人・魔族)は浄化すべき塵である」
指導者: 聖女エステラ(慈愛の仮面を被った狂信者。エンマの『生死を操る力』を、神への冒涜として敵視している)
戦力: 聖騎士団(重装甲)、および洗脳された狂信兵。
特記事項: 「聖歌」によって兵士の闘争心を煽る
技術を持つ。
「……聖歌、か。『歌の力』を使ってるってわけだ」
健二は苦笑した。
聖教国は、自分たちの正義を証明するために、エンマ城に集まる多種族の共存を「悪魔の宴」と断定しているらしい。
「彼らは近いうちに『浄化』という名の侵略を仕掛けてくるだろう。……特に、暗黒竜が消え、この地に『奇跡』が起きていることを彼らは許さない」
「……へぇ。私の眠りを妨げるつもり?」
エンマが、食べ終えたプリンのカップを置いた。
その瞳の奥に、かつて地獄で亡者を震え上がらせた「冷徹な炎」が宿る。
「私を怒らせたら、パナセアとかいう場所をまるごと地獄の出張所に変えてあげるわよ」
「いや、エンマ。そこは暴力じゃなくて、『圧倒的なステージ』で黙らせるんだ。……リュカ、メイド修行のメニューを変更だ。明日から『ステップ』の練習を始めるぞ」
「はっ! 敵を翻弄する歩法ですね! 承知いたしました!」
聖教国の「狂信的な歌」に対し、ドルオタが仕掛けるのは「魂を揺さぶるパフォーマンス」。
異世界の覇権を懸けた、奇妙な戦いの火蓋が切って落とされようとしていた。




