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混沌の城下町、異世界のファンベース

エンマ城のふもとは、わずか数週間で異様な光景へと変貌を遂げていた。


本来なら殺し合っているはずの「魔王軍の脱走兵(魔族)」と「聖教国の逃亡騎士(人間)」が、同じ屋根の下でドワーフの作ったエールを酌み交わしている。それをエルフの給仕が冷ややかな目で見守り、足元では小人コビトたちが器用に石畳を舗装していく。


「……信じられん。種族の壁が、これほど脆く崩れるとは」


ドワーフの長・バルガスが、変わり果てた町の景色を見て唸った。


「壁を壊したのは友情じゃない。『エンマへの恐怖』と、ここ以外に安眠できる場所がないという『現実』だ」


健二は手帳に町の区画図を書き込みながら答える。

中央広場から放射状に伸びる通りには、各種族の特性を活かした店が並び始めていた。


エルフの薬草店、

ドワーフの武具鍛冶、

そして魔族が持ち込んだ珍しい魔獣の肉。


「……ねぇ、健二。外がうるさすぎるんだけど。防音魔法、もっと強くして」


城のバルコニーに、パジャマ代わりの薄い着物を羽織ったエンマが、目をこすりながら現れた。

その姿が見えた瞬間、町中の動きが止まる。


「「「エンマ様だ……! 本物のエンマ様だぞ!!」」」


「ひっ……!? な、なによ、あいつら。こっち見てるじゃない」


数百人の多種族が、一斉に広場に集まり、城を見上げて跪いた。


彼らにとって、この町を魔物や追っ手から守り、豊かな水と緑を与えてくれたエンマは、もはや信仰の対象に近い。


「おいエンマ、手を振ってやれ。それが『福利厚生』だ」


「はぁ? 意味わかんない。……ほら、これでいいんでしょ。しっしっ、散った散った」


エンマが適当に手をひらひらさせると、町中に地鳴りのような歓声が沸き起こった。


「おおおぉぉぉー! 手を振ってくださった!」「目が合ったぞ! 今、俺を見てゴミを見るような目をしてくれた!」


「……健二、あいつら、地獄の亡者よりタチが悪いんだけど」


「それを世間では『熱狂的なファン』と呼ぶんだ。……よし、いい反応だ」


健二は確信していた。

アイドル活動はまだ先だが、すでに「土壌」は完成している。


この町に住む者たちは、エンマの強さに救われ、その美しさに魅了されている。


「バルガス、次の工程だ。中央広場の演武場を拡張しろ。あと、夜でも城が綺麗に見えるように、魔石を使った『ライトアップ』の設置を頼む」


「……あんた、本当に何を目指してるんだ? 国を獲る気か?」


「いや。世界中の連中が、武器を捨ててここへ『巡礼』に来るような場所にするんだ」


健二の視線の先では、町に新しく入ってきた小人たちが、器用にエンマの姿を模した「木彫りの人形」を露店で売り始めていた。


異世界初の「公式(?)グッズ」の誕生である。


しかし、この異様な発展を、外の世界が放っておくはずもなかった。


城下町の入り口では、聖教国の紋章を隠した「不審な集団」が、鋭い視線で城を伺っていた——。

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