絶対王政(ニート)の城下町と、三勢力の火種
断罪の砦を「エンマ城」と改名してから一週間。
ドワーフたちの卓越した建築技術と、エルフたちの精霊魔法による浄化によって、荒れ果てていた城内は見違えるほど清潔になった。
「……ふわぁ。このベッド、前の地獄の岩より全然マシよねぇ」
エンマは城の最上階、最高級のシルクで設えられた天蓋付きベッドで、これ以上ないほどだらけきっていた。
「おいエンマ、寝てばかりいないで下の様子を見てこい。城の麓に、行き場を失った連中が集まって『城下町』ができ始めてるぞ」
健二は手元の羊皮紙に、ドワーフの長・バルガスから聞き出したこの世界の情報を書き留めていた。
「……なるほど。この世界は大きく分けて三つの勢力が睨み合っている、と」
バルガスが苦々しく頷く。
「ああ。一つは、光の神を信奉し、亜人を排斥しようとする『聖教国パナセア』。
もう一つは、強大な魔王が統べる暴力の化身『魔王軍直轄領』。
そして最後が、エルフやドワーフ、小人たちが身を寄せ合う『自由都市連合』だ」
「で、この城はそのど真ん中にある、と」
「そうだ。ここはかつて魔王軍の拠点だったが、エンマ様が暗黒竜を『トカゲ扱い』して以来、どっちの勢力も手が出せなくなっている。……まさに台風の目だ」
健二は顎に手を当て、思考を巡らせる。
聖騎士は「正義」の名の下に異分子を排除し、魔王軍は「力」で蹂躙する。
(……ギスギスしすぎだ。この世界には圧倒的に『エンターテインメント』が足りていない)
「健二ー。喉乾いたー。なんか美味しいやつ持ってきてー」
バルコニーからエンマの締まりのない声が響く。
健二が外を覗くと、城の広場にはドワーフが作った巨大な円形石舞台(演武場)があり、その周囲ではエルフたちが植えた光る花が夜を彩っていた。
城下町には、人間から逃げてきたエルフ、魔王軍の徴兵を嫌った魔族、住処を焼かれた小人たちが、エンマという「絶対的な暴力(安全)」を頼って集まってきている。
「おいバルガス。この世界に、歌や踊りで金を取る奴らはいるのか?」
「……はぁ? 吟遊詩人が酒場で歌うくらいはあるが、そんなので飯が食えるのは聞いた事ねぇな。今はそれどころじゃねぇしな。明日の命もわからねぇんだぞ?」
「そうか。……なら、独占市場だな」
健二の目が、かつての社畜時代には見せなかった「野心」で光る。
人々に必要なのはパン(食料)だけではない。明日を生きるための「希望」と、共通の「推し」だ。
「よし、町をさらに広げるぞ。各種族の居住区を整理し、中央通りには『物販……じゃなかった、市場』を併設しろ。
それから、城の舞台に音響魔法の魔法陣を刻むドワーフを募ってくれ」
「……あんた、一体何を作るつもりだ?」
「国じゃない。『劇場型都市』だ」
健二は、まだパジャマ姿でリンゴを齧っているエンマを見上げた。
彼女はまだ、自分がこの殺伐とした世界の「救世主」に祭り上げられようとしていることに、微塵も気づいていなかった。




