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第断罪の砦と、震える亜人、暗黒竜

荒野の果て、切り立った崖の上にそびえ立つ黒ずんだ石造りの古城。


かつては「断罪の砦」と呼ばれ、数多の罪人が朽ち果てたその場所は、今や触れるものすべてを腐らせる「暗黒竜」が支配する、生ける屍の巣窟と化していた。


「……あそこにするわ。石造りで頑丈そうだし、何より今の砂埃まみれの場所よりはマシ。地下室があれば昼寝にも最適ね」


エンマが指差したのは、空をどす黒く染めるほどの禍々しいオーラを放つその砦だった。


「おい待てエンマ! あそこにはランクAの災厄級モンスターが住み着いてるって、さっき泡を吹いて逃げてきた行商人が言ってたぞ! 正気か!?」


「正気よ。騒がしい連中を黙らせるには、物理的に高い壁が必要でしょ」


健二の制止などそよ風程度にしか聞き流さず、エンマは地獄の備品であるサンダルをペタペタと鳴らしながら、巨大な正門へと歩いていく。


すると、砦の影から、泥にまみれたエルフの親子や、重い鉄鎖に繋がれたドワーフの集団が這い出してきた。彼らは魔物に捕らえられ、死ぬまで労働を強いられる絶望の淵にいた。


「……逃げて! 早く! 中には、息を吸うだけで命を奪う暗黒竜が……!」


エルフの少女が枯れた声で悲鳴を上げる。その瞬間、砦の奥から鼓膜を突き破らんばかりの咆哮とともに、巨大な漆黒の翼が広げられた。

「グルァァァァッ! 我が眠りを妨げる矮小なる人間共め、塵となれ!」


暗黒竜がその巨大な顎を開き、万物を腐敗させるブレスを放とうとした、その時。


「うるさいわね。……這いつくばりなさい」

エンマが冷ややかに言い放ち、白皙の指先をスッと地面に向ける。


【地獄の引力ヘル・グラビティ


ズドォォォォォン!!


大地が数メートル陥没するほどの衝撃波が走った。


暗黒竜は咆哮を上げる暇もなく、まるで不可視の巨大な拳で殴りつけられたかのように地面にめり込み、文字通り「土下座」の姿勢で固まった。


「ギ、ギガァ……アガッ……!?」


「あんた、自分の立場わかってる? 私、今すっごく機嫌が悪いのよ。長年勤めた会社(地獄)を辞めて、ようやく有給消化……じゃなくて自由になれたと思ったら、トカゲの騒音公害? 舐めてるのかしら」


エンマが一歩進むごとに、竜の強固な鱗がひび割れ、骨が砕ける嫌な音が周囲に響き渡る。


かつて「終焉の使者」と恐れられた魔物が、今はただの弱った爬虫類のように失禁し、恐怖にガタガタと震えていた。


「……殺す価値もないわね。今日からここは私の家よ。あんたは、その図体を活かして庭の掃除と荷物運びでもしてなさい」


エンマが指を鳴らすと、竜の首に禍々しい棘のついた「地獄の番犬ケルベロス」の首輪が出現し、食い込んだ。絶対服従の呪い。最強の魔王軍候補が、一瞬で「番犬トカゲ」に成り下がった瞬間だった。


呆然と立ち尽くすエルフやドワーフたちに、健二が不敵な笑みを浮かべて歩み寄る。


「……見たろ。彼女は、この世界のどんな王よりも強く、そして(機嫌さえ損ねなければ)慈悲深いお方だ」


「あ、あんたたちは一体……神の使いか、それとも……」


「俺はプロデューサー。まあ、彼女の身の回りを整えるマネージャーだ。お前たち、行く当てがないならこの城に住め。彼女の『聖域』の内側なら、魔王軍も聖騎士団も指一本触れさせない。その代わり——」


健二は、獲物を定めるプロデューサーの鋭い目で、エルフの類まれなる美貌と、ドワーフの神業に近い器用な指先を舐めるように見つめた。

「この城を、世界で一番美しく、活気のある……そう、最高の『エンターテインメント・シティ』に作り替える手伝いをしろ。衣食住は保証する。いいな?」


「……命を救っていただいたお礼です。その、えんたーていめんと? は分かりませんが、何でもやります!」


ドワーフのリーダーが力強く跪き、エルフたちもそれに続いた。


こうして、「最強のニート閻魔」を頂点とし、多種族の専門技能集団を配下にした、前代未聞の拠点が誕生した。


「まずは広場の整地だな……。おいドワーフ、そこに頑丈な『演舞場(後の特設ステージ)』の基礎を組め! エルフは城の周囲に光を反射する花(後の天然ライティング)を植えろ! 急げ、こちとらデビューまでのスケジュールはカツカツなんだ!」


城の広場では、まだ自分たちが

「アイドル文化の先駆者」

になるとは知らないドワーフたちが槌を振るい、エルフたちが魔法で花を咲かせ始める。


アイドルという概念すら存在しない異世界で、史上最強の「ハコ(劇場)」が、圧倒的な武力とオタクの情熱によって形作られていった。

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