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チートな閻魔と、厄介なプロデューサー

眩い光が収まると、そこは鼻を突く硫黄の臭いと、赤茶けた大地が果てしなく広がる荒野だった。


遠くの地平線では、重厚な鉄の鎧に身を包んだ「人間族」の数万の軍勢と、禍々しい角や翼を持つ「魔族」の集団が、今まさに歴史的な衝突を遂げようと地響きのような雄叫びを上げている。


「……はぁ。転生先が最前線? 冗談じゃないわ。ブラック企業から逃げたら戦場って、運命の神様は性格が悪すぎる。……帰りたい」


エンマは地獄の最高級絹で作られた着物の裾についた砂を、イライラと払いながら溜息をついた。その瞳には、世界の危機などこれっぽっちも映っていない。


「おい、エンマ! 感傷に浸ってる場合か! 囲まれてるぞ!」


健二が絶叫する。


二人の周囲には、戦場の混乱を突いて獲物を探していた魔族の斥候部隊が、ハイエナのように群がっていた。その中の一騎、三メートル近い巨躯を誇る魔族の将校が、凶悪な笑みを浮かべて巨大な戦斧を振り上げる。


「死ねぇッ! 人間の小汚いガキ共がぁ! 貴様らの内臓を魔王様への献上品にしてやる!」


大地を割りながら突進してくる鉄の塊。その風圧だけで普通の人間なら失神するレベルだ。

だが、エンマは動かない。ただ、面倒そうに視線を上げた。



「……五月蝿うるさいわね。今の私は、最高に機嫌が悪いの」



エンマが白く細い指をスッと横に振る。



「静粛に」



刹那、世界から音が消えた。

いや、音が消えたのではない。突進していた騎兵の動きが「ことわり」によって停止させられたのだ。


ドォォォォォォン!!


見えない巨大な「裁きの槌」に空から叩き伏せられたかのように、騎兵は馬ごと地面に陥没。一瞬で原形を留めない肉塊へと変わり、そこには巨大なクレーターだけが残された。


「え……? 何が……」


健二が呆然とする中、エンマは冷ややかな声で告げる。


「私は地獄の主よ? 生死の理を操り、魂の行先を決める私に、この世の理に縛られた生身の存在が勝てるわけないでしょ。……あーあ、砂埃で袖が汚れちゃった。クリーニング代、誰に請求すればいいのかしら」


彼女が放つ「本物の死」のプレッシャーだけで、数千の軍勢の動きがピタリと止まった。勇猛果敢な兵士たちが、まるで蛇に睨まれた蛙のように震え、武器を落とす。


まさに最強。戦うまでもない、絶対的な「裁き」の化身。


(……これだ。この圧倒的なオーラ、魂を凍らせるほどの冷酷なまでの美しさ!)


だが、健二は恐怖など微塵も感じていなかった。

彼の脳内では、かつて推しのために注ぎ込んできた「ドルオタの魂」が、火山の如く噴火していた。


その時、健二の視界にノイズが走り、奇妙な半透明のウィンドウが浮かび上がる。


【固有スキル:オタクの審美眼プロデューサー・アイ発動】

対象: エンマ(種族:元・閻魔大王)

ビジュアル: SSS(すべての種族を超越した神域。立っているだけで銀河を救う)

歌唱力: G(壊滅的。地獄の亡者の叫びをBGMに育ったため、音程という概念が存在しない)

ダンス: F(やる気ゼロ。盆踊り以下の運動神経、というか動く気がない)

メンタル: E(極度の社畜疲れ。アイドルへの関心:0.01%。隙あらば寝たい)

特筆事項: 怒らせると世界が滅ぶが、甘いものに弱い。


「な、なんだこれ……!? 歌唱力がG!? 逆にどうやって出すんだそんな低い評価……!」


健二には、相手の潜在能力がすべて「アイドルとしてのステータス」で表示されていた。

さらに、頭の中に直接ログが流れる。


【スキル:コール&レスポンス】

→ 主人公が叫んだ指示コールに対し、対象が行動レスポンスした場合、対象の身体能力・魔力を一時的に300%上昇させる。

【スキル:聖域(ライブ会場)展開】

→ 半径50メートル以内を「絶対安全圏」とする。敵が放つ物理・魔法攻撃をすべて「演出(スモーク、花火、紙吹雪)」に変換し、ダメージを無効化する。



「……なんだこの能力、完全に『現場用』じゃないか!」


健二は確信した。

この最強だが「やる気ゼロ」のニート志望少女を、この血生臭い異世界のトップアイドルに君臨させる。それこそが、自分に与えられた使命なのだと。


「おい、エンマ! 最初の仕事だ!」


「……は? 仕事? 私、もう働かないって言ったわよね? 次の仕事の話をしたら、あなたの舌を引き抜いて地獄の特等席に招待してあげるって言わなかったかしら?」


エンマの瞳に紫色の炎が灯る。だが健二は一歩も引かない。


「働くんじゃない、『推される』んだ! お前はただそこに立って、その圧倒的な顔面偏差値で民衆を跪かせればいい。残りの面倒なことは全部俺がやる! 見てろ、お前をこの世界で一番幸せな、働かなくても貢がれる『ニートの女王』にしてやる!」


「……よくわかんないけど。要するに、私は何もしなくていいってこと?」


「ああ! 俺が『可愛い』って言ったら、ちょっと照れた顔でもしてくれれば100点だ!」


「……期待外れだったら、本当に即、釜茹でだからね」


最強の力を持つ「アイドル関心0.01%」の少女と、世界を無理やりステージに変えようとする「狂ったドルオタ」。


今、異世界の歴史が――というより、世界のルールそのものが、とんでもなく間違った方向に動き出した。

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