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地獄の門番は、推し活おじさんに興味がない

「……あー、今日も残業か」

佐藤健二(34歳)は、都内のオフィスビルから力なく吐き出した。

父親のコネで入社できた会社。


大手ゼネコンだ。


会社では「お荷物」扱い。上司からは無能と罵られ、同僚からは存在を無視される。

部下からはバカにされているだろう。


窓際?お荷物?

そんな事はどうでも良かった。



そんな彼の唯一の生きがいは、

アイドルの推し活。

若い頃、たまたま行った

地下アイドルのステージ。


そのステージ見た彼は

衝撃を受けた。

アイドルの笑顔や仕草、立ち振る舞いに

魅了されたのだ。


その日以来、

アイドルに全神経を集中させている。


推しのアイドルが売れれば歓喜し貢献し

引退すれば涙し、また新たな推しを見付け

また応援する。





「推しの笑顔のためなら、こんなクソみたいな仕事も耐えられる……」


働いて稼いだお金も全て推し活に使っている。



推しの笑顔が写ったスマホの待ち受けに溜息をつきながら、駅への横断歩道を渡る。


その時だった。

キィィィィィィィィッ!!

猛烈なタイヤの摩擦音。視界が真っ白なライトに染まる。

(あ、これ……マズいな。明日のライブ、チケット取ってたのに……)

衝撃は一瞬だった。




佐藤健二 ドルオタ人生 ~完~


……

………




次に目が覚めたとき、そこはコンクリートの地面ではなく、どんよりとした紫色の雲が垂れ込める、殺風景な「役所」のような場所だった。


「……ここ、どこだ?俺死んでない……」


「次の方ー。サトウ・ケンジさん。早くしてくださ~い、定時過ぎてるんですよ」


低く、突き放すような声。

促されるままに進むと、巨大な黒塗りのデスクに、一人の少女が肘をついて座っていた。


漆黒の着物を着崩し、頭には小さな角。

手には「閻魔」と刻印されたタブレット。


絶世の美少女だが、その目は完全に死んでいる。ひどいクマがあり、数日間は寝ていないような、救いようのない「社畜」のオーラを放っていた。


「えー、佐藤さん。現世での徳……ゼロ。罪……これといって無し。趣味、アイドルの追っかけ……? はぁ。何それ、時間の無駄じゃない。ハイ、地獄行き。お疲れー」



「待て待て待て! 地獄!? 俺、悪いことしてないぞ! それに、推し活は時間の無駄じゃない! 人生を豊かにする光そのものなんだよ!」


「なにこいつ。エンマ様に何能書きたれてんの?釜茹でかくてーい。」


健二が必死に食い下がると、

少女——閻魔のエンマは、これ以上ないほど冷ややかな目で彼を見下ろした。



「光? バカ言わないで。この世に光なんてないわよ。あるのは終わらない書類仕事と、亡者の苦情処理だけ。アイドル? 歌って踊ってチヤホヤされるだけの人形でしょ。そんなもの、私の人生には1秒も必要ないわ」



彼女はタブレットを放り投げ、乱暴に髪を掻きむしった。


果てしなく続く行列

泣いている子供からヨボヨボのお年寄りまで

閻魔様からの審判をされるために

並んでいる。



「……ああ、もう限界。やってらんない。誰がこんな暗い場所で一生、死人の管理なんてしなきゃいけないのよ。ねぇ、あんた」



エンマは身を乗り出し、健二の胸ぐらを掴んだ。



「あんた、さっき『人生を豊かにする』とか言ったわね。……私ここから出るからお世話しなさい。どこでもいい、地獄以外の場所へ行くわ。そこで私が『仕事をしなくていい身分』になれるようにして。そうすれば、地獄行きは保留にしてあげる」



「え、それって……異世界転生?」



「名前なんてどうでもいいわ。とにかく、私はこのブラック職場から脱走する。あんたは私の『道具』として、私を養いなさい。わかった?」



「養う??女性と同棲経験なんてないし

付き合ったことすら……!

だが、アイドルのようにプロデュースなら……」



「文句を言うなら、今すぐ釜茹でにするけど?」



エンマの手から黒い炎が上がる。



「……謹んで、お引き受けいたします」



「話が早くて、いいわね。じゃあ、行くわよ。

……さらば、クソったれな職場!」



エンマが指を鳴らすと、健二の足元に巨大な魔法陣が浮かび上がった。



アイドルを否定する閻魔と、アイドルに命を懸けるオタク。



相性最悪の二人が、魔族や人間が争う混沌の異世界へと放り出された。

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