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EN~RIN  作者: 不動坊多喜
第二章

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85/106

(85)旅《平原の国》⑤

 ツァンが行方不明になり、ロカが骨折した。

 ラサの表情は死んだ人のように色を失くし、ロッシュは怒りに燃えている。


 どうやら、競技に出られないことは、ラサにとって一大事のようだ。

 ラサのあんな顔は見たくないし、怒っているロッシュは危険だ。誰か殺されるかもしれない。

 私にできることがあれば、せねばなるまい。


「私が出よう」

 フォンはロカの馬をなだめると、それに飛び乗った。

 競技に参加することは戒律に反しないし、馬に乗れるのならば喜んで手伝おう。


 とにかく、馬は素晴らしい生き物だ。美しく、しかも、賢い。

『乗っていいかい』

 そう問うと、目を細めて了承してくれる。

 私の望む通りに駆けてくれる。

 一体となって駆けるのは、大気に溶け込んで風になるのとよく似ている。

 否、風を感じることができる分、こちらの方が心地よい。


 出番まで少し間があるようなので、魂を飛ばす。

 すぐにアビィと出会う。


『どうだい。何か見つかったかい』

『いや、全く。とにかく広いから』

『君の眼は、遠くまで見えるのだろう?』

『隠されていなければね』

『ツァンは、どこかに隠されているのか』

『そんな感じがする』

『じゃあ、彼の馬は?』

『馬か……。そう言えば、林の中に一頭いたな。変な気がしたが、そういうことか』


 アビィは反転すると、谷に向かって飛んで行く。

『ありがとう』という言葉が、風に紛れて漂ってくる。


「フォン」

 ロッシュに呼ばれて、はっと意識を取り戻す。

「ボーっとしてないで。もうすぐ、出番だよ」

 叱られてしまった。


 弓を引くのも初めてだが、これも人助け。できる限りのことをしよう。

 矢を放ち、大気の道筋を作り、風で背中を押してやる。矢は、的をたがわず飛ぶ。

 簡単なことだ。ロッシュの言葉を借りると「ずる」だが、人助けのためだ。

 最後の的は頭を越して投げられたが、なんてない。軌道を予想して風を送るだけだ。

 陶器のかけらが見ている人の頭に落ちないよう、大気を動かす。これは人助けであって、「ずる」ではない。

 競技の後、ロッシュが恨めしそうに私を見たが、「ずる」とは言ってこなかった。たぶん、自分が失格になったので責任を感じているのだろう。ロッシュの分も頑張らねば。


 次の競技はすぐ始まるので、アビィに会いに行く暇はない。気になるが仕方ない。


 それにしても、羊とは、もこもこして、なんと可愛い生き物か。

『おひさまと草のにおいだ』

 そう言って私に寄って来る。私の中身は大気と大差ない。それが分かるのだろう。

 たくさん集めた方が勝ちらしいから、これは有利だ。それに、「ずる」ではない。


 さてさて、無事に次の種目に進めるようだが、走る順番を決めなければならない。

 先に走っておく方が、落ち着いてアビィと話し合えるだろう。


「ロッシュが最後を走ってくれないか」

「分かった。じゃあ、確認するけど、……」

 珍しく、ロッシュがルール確認を始めた。よほど、失格がこたえているのだろう。私もきちんと聞いておこう。


 銅鑼の音で飛び出そうとしたが、両側の馬が体を寄せてきて出遅れてしまった。はさまれたまま走り出したが、前にも一頭、進路をふさぐようにしてゆっくり走っている。

 どうやら、乗り手は皆、アムドに協力しているようだ。やれやれ、無駄なことを。


 わざと速度を落とし、一番後ろにつける。前の馬と十分距離を取って、カーブの外側から一気に抜きにかかる。

『すまないね。通してもらうよ』

 人ではなく、馬にお願いする。馬は皆、素直だ。道を譲ってくれる。乗り手が焦っても動かない。


 さあ、走ろう。

 私はいてもいないのと同じだから、馬はのびのび走れる。

 直線で先頭に躍り出ると、カーブからは独走だ。


 ラサに札を渡し、ロッシュの傍に戻る。

「お疲れ」

 私を見ずにそう言う。ラサが気になるのだ。

 好都合。

 魂を飛ばす。


『アビィ。どうだい。見つかったかい』

『ああ。やはり、隠されていたよ。今、掘り返している』


 リシュとツァンの母とラサの父と、三人がシャベルを使っている。

 確かに、その下からツァンのエナジーが漏れ出ている。かなり弱っているが、まだ大丈夫だ。とはいえ、あのペースではまだまだ時間がかかるだろう。

 ディグィンすればあっという間だが、それは出来ない約束だ。

 何か、土が崩れてもおかしくない現象……、そうだ。


『ナイ・アン・ディグィン』


「地震だ」

 リシュが叫んでシャベルを投げ出すと母親を庇った。反対側を掘っていた父親も、慌てて身を伏せる。

 さあ、上手に崩さねば。


 上から、新たに土砂を崩す。土砂はツァンを覆った土と一緒に、三人を避けて崩れ落ち、川岸よりさらに低い谷底に積み上がる。

 うん、上々だ。ツァンの頭と手足が見えている。

 これなら、すぐに掘り出せるだろう。


『後は頼んだよ』

 アビィに任せて競技場に戻る。

 ロッシュがカーブで前の走者を追い抜いていく。

 間に合ってよかった。

 レースが終わっていたら、「ボーっとしてないで」と叱られただろう。

 それにしても、どうして後ろを走っているのだろう。何かへまをしたのかな?

 でも、聞けば「見てなかったのか」と叱られるだろう。


 ああ、今ゴールした。何とか一位を取れたようだな。

 ラサが泣きながらロッシュに飛びついている。これで借金も返せるだろう。


 アムドがロッシュに言いがかりをつけた時はどうなることかと思ったが、ツァンが来て解決してくれた。ツァンが無事で、本当に良かった。


 今日も人助けができて、良い一日だった。


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