表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
EN~RIN  作者: 不動坊多喜
第二章

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

77/105

(77)旅《山岳の国》②

 ロッシュは、ベッドの上で近寄って来るその人を待っていた。

 胸の高鳴りが抑えられず、相手が気づいて足を止めるのではないかと心配になるほどだった。そして、そう思えば思うほど、鼓動はますます大きくなった。

(彼は、どんなふうに私を……)

 考えるだけで、叫び出しそうだった。それを堪える。


 忍び足が、ロッシュの傍で止まる。

 ロッシュは芝居が下手だ。だから、待っているのを知られないように、壁に顔を向けて横になっていた。必然、彼の手は背後から伸びてくる。その気配を感じる。


 手はロッシュの布団をめくり上げると、胸元に伸びてきた。合わせの部分に指をかけ、そのまま服を剥ぎ取るつもりだろう。

「やっぱ、そっちかよ」

 ロッシュが体をひねって跳ね起きた。


 次の瞬間、「ぐわぁ」と、野太い悲鳴が上がった。

 手にした日本刀は、血を滴らせている。

 男は右手を抑えて床に転がった。服を剥ごうとした手は、指先を失っていた。


 真っ暗な小屋の中で、ロッシュが跳ねる。

「殺しはダメですよ」

 フォンの声が響く。

「殺してない。多分」


 ロッシュは目が良い。だけでなく、五感がすぐれている。体温、息遣い、空気の流れなどから、どこに人が居てどう動こうとしているか、どんな暗闇でも感じ取れる。もともとそういう力はあったが、円を使えるようになって一層研ぎ澄まされてきた。


 今、小屋には五人の敵がいる。二人はフォンに対峙し、二人はリシュを縛り上げようとしている。そして、小屋の外にも六人ばかり潜んでいるようだ。

(つまり、集落全体が山賊の一味ってか)


 ロッシュに手を出そうとしたのは一味の親分だったようだ。

「お頭。今の悲鳴は」

「大丈夫ですか」

 声と共に、扉が開き、風と一緒に仲間がなだれ込んできた。それを蹴散らす。

「女と思って甘く見たね」

 殺しはダメというので、峰打ちで気絶させる。

 それをフォンが、敵が用意していたロープで順に縛り上げていく。


 助けを求めて小屋から走り出した男も、隣家から飛び出してきた女も、叩いて叩いてのしていく。

 外にいる者を一掃した後は、一軒ずつ順に御用改め、潜んでいるのを引きずり出す。

「一網打尽だよ」

 そうして、全ての家を改め、全部で十八名をお縄にした。


 カボが長縄を見つけてきたので、一人ずつ縛り上げていたのを結び付けて一括りにする。

 せめてもの情けと、その近くで焚火を起こしてやる。


「何時、気づいたんだ」

 寒さに震えながら、若者が聞く。

「最初からだよ。私らは、誰も通らないという道を通っていたんだよ。それに、この季節、山人はみな、村に下りているはずなんだよ。しかも、後ろから来たのに下るって、変だと思わない方がおかしいよ」

 ロッシュが息巻くと、呆れたようなつぶやきが胸元から聞こえた。

「よく言うよ。おいらが言うまで気づかなかったくせに」

 それは無視する。


 チッと舌打ちする音が聞こえる。

「あんた達こそ、私らがあの道を通ってるって、何時気づいたんだい?」

「こっちも最初からさ。普通はこちらに来るのに、別の方へ向かった。だから俺が追いかけた」

 若者はそう言うと、顎で崖の方をしゃくった。

「なるほど。あそこが物見台ってわけか。それで、近づけたくなかったんだね」


 カボの忠告で怪しいと気づいたが、ロッシュとフォンは、わざとそれに乗ることにした。山賊をやっつければ人のためになると思ったからだ。

 小屋に入ってからはカボを偵察に向かわせ、相手の出方を伺っていたのだ。


 ロッシュは抜き身を持ったまま、山賊の周りを歩いた。一人の女性の傍で立ち止まり、顔を寄せて聞く。

「で、スープには何を入れてたんだい?」

 女は、顔をそらせながら答えた。

「眠り薬だよ。あんたたち、ちゃんと飲んだはずなのに、どうして……」

「すみませんねぇ。そういう類のものは効かないんですよーだ」


 ロッシュはまた歩き、お頭の前で再度立ち止まる。飛んだのは、右手の中指と人差し指の先だった。今は、そこに包帯を巻いてある。フォンが手当てしたものだ。

「指先は残念だったね。でも、私に手を出そうなんてするから高くつくんだよ。命が助かっただけましだったと思いな。それより、ここはあんたたちが作った村かい? それとも、奪った村かい?」

 お頭はむすっと口を閉ざしていたが、ロッシュが切っ先を喉元に向けると、渋々開いた。

「奪った村だ。住んでた奴らは全部殺した」

「で、ここを根城にしたわけか。それで、どうやって軍の取り調べを凌いだのさ」

「賄賂を渡せば、いくらでも見逃してくれる」

「賄賂か。腐ってるな、どこもここも」


「それで、こいつら、どうするの?」

 カボが問う。

「このままにして立ち去る。春になったら誰かが見つけるでしょ」

「そんな、明日には凍え死にしちゃうよ」

 女が悲鳴を上げた。

「じゃあ、今、一思いに殺しちゃうか」

 ロッシュが刀を振る。

 悲鳴が一層大きくなる。


「殺すのはダメだ」

 フォンの言葉に、ロッシュが反論する。

「殺した方が後腐れ無くて良いよ」

 カボも同意する。

「生かしておいたら、山越えの人がまた襲われるよ。男は殺されて、女子供は売られるんだ」

「そうだよ。私みたいに純潔を奪われる乙女が増えるんだよ」

「奪われてないだろう」

「そういう問題じゃないよ。どっちが人助けか考えて」


 フォンは、苦虫を噛み潰したような表情で考え込んだ。


 空が白み始めた頃、ようやく決断したのだろう、顔を上げた。


「分かった。運に任せよう」


 唖然とするロッシュを前に、フォンは動き始めた。

 縛り上げた一同を立たせると、崖の手前に誘導する。

「俺たちを突き落とそうってのか」

 反抗し、逃げ出そうとする者もいたが、フォンの髪が許さなかった。引っ掴んで引き戻す。その髪の動きを見ただけで、一同は震えあがった。

「化け物だ」

「俺たち、こんな化け物を相手にしようとしていたんだ」

「お願いだ。助けておくれ」

 口々に呪いの言葉を吐きながら、震え始めた。


 物見台からの景色は最高だった。うねる山道が、雪を被った木々の間に見え隠れする。その先には、クリームの上のベリーのように、集落の赤い屋根が散らばっている。そのさらに向こうから、太陽が顔を出してきた。


 全員が並んだところで、フォンは呪文を唱え始めた。風が渦巻き、山賊達を持ち上げると麓の村目指して緩やかに下り始めた。

「甘い」

 ロッシュが、それに突風を吹きつけた。

 下りかけていた山賊の塊が、勢いよく舞い上がった。そして、急降下。

 悲鳴の余韻を残して、塊は駆け下りて行った。


 カボがポツンとつぶやいた。

「無事に村にたどり着けるかなあ」

 ケケケとロッシュが笑う。

「それこそ運しだいだね。それにしても、生きてる奴が居たらなんて証言するのかな。私の時は白髪の魔女だったけど」

「蛇の髪の化け物だろうね」

「魔女とどっちがましかな」


 ロッシュとカボが笑い合うのを、フォンは苦々し気に見つめている。

 その表情がおかしくて、ロッシュはまた笑った。


 小屋に戻ると、リシュが目を覚ましていた。


「ここは?」

「夏の間、村の人が過ごす山小屋だよ」

「ああ。よく見つけられたね」

「それより具合はどう?」

「もうすっかり良いよ」

「じゃあ、出発だね」

 フォンが、ボソッと付け加える。

「山賊の心配はもうないから、楽な道を進もう」


 リシュは変な顔をしたが、黙ってうなずいた。


 それがおかしくて、ロッシュはまた笑った。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ