(70)再会⑤
フォンは感動していた。
この世界は、何と美しいことか。そして、力強いことか。
以前、ミーナを追って来た時には気づかなかったが、あの時は必死だったから仕方がない。
今、こうして見回すと、サラナーンがいかに病んでいる世界だったか、思い知らされる。
円使いが、エナジーを乱用したからかもしれない。いや、それはターマも同じことか。
沙漠は、何一つ生き物がいないように静かだった。しかし、砂の中に多くの生き物が潜んでいるのが分かる。筋となってエナジーが溢れているのは、そこに地下水脈があるからだ。
以前、この水脈を歪めて泉を作った。その影響はなかったようだ。いや、あったにしても、微々たるものだったのだろう。そのはずだ。何しろ、この世界は大きくて広い。
そうだ。この世界はサラナーンよりずっと大きい。だから、活力に満ちているんだ。
思わずため息が出る。こんな世界があったのだ、と。
空を見上げる。鷹が飛んでいる。
ふっと気づくと、自分も一緒に飛んでいた。
砂の上に自分の体が転がっているのが見えて、思わず笑う。
そして気づく。今まで生きてきて、こんな風に笑ったことなどなかったと。
鷹に話しかける。
『彼は君の友達かい』
『ああ。私の友人だ』
『どういう人かな?』
『鷹のように賢い。空は飛べないがな』
それから、フォンを見て不思議そうに首を傾げた。
『君は人なのに飛べるんだね』
『形は人だが、中身は大気と同じだよ』
『ああ。それなら分かる』
『遠くに見える緑が、彼らの目的地かな』
『そうだろう。あれはオアシスだ。人が大勢住んでいる』
『君もあそこに行くのかい』
『どうだろう。彼からネズミを託されるかもしれないし、そうなったらあそこには行かないな』
『ネズミ?』
『ああ、彼の兄に届けるのが私の役目だ』
『忠実なんだね』
『友達だからな』
『彼は、信頼できる人かい?』
『もちろん。だが、心配はある』
『心配?』
『彼は信頼できるが、そうでないものが彼の周りにいる。そして、なぜか、彼はそいつを信頼している。とりあえず息子に見張らせているが……』
『そんなに信用できないんだ』
『ああ。いつか悪いことが起きそうな気がする』
その時、指笛が鳴った。
『おっと、行かなくては』
方向を変え、急降下していく。
残った若い一羽に話しかける。
『君は行かなくていいのかい?』
『今のは父さんの合図だからね』
『合図が決まってるんだ』
『そう。名前と同じさ』
父親が戻って来た。足に、灰色の袋が縛り付けられている。
『あそこには行けないようだね』
『ああ。もっと遠くの国まで飛ぶよ』
『気を付けて』
羽ばたきでそれに応え、父親はぐんぐん遠ざかる。
また、指笛が鳴る。さっきより、やや細く高い響きだ。
『じゃあね』
息子が舞い降りて行く。
リシュが、腕を伸ばして彼を受け止めている。
近くで、ロッシュが背を丸めて何かしている。どうやら食事の支度をしているようだ。
息子は戻って来なかった。
父親とは反対の方角に向けて飛んで行く。
彼らは友人のために力を尽くしている。
『力は人々のために使わねばならぬ』
老師はそうおっしゃった。
私も、この新しい世界で、人々のために自分の力を使うようにしよう。
さあ、そろそろ戻るとするか。
ふっと、砂の上で目覚める。
立ち上がると砂を払い、歩き出す。
シチューの匂いが漂って来る。
ロッシュは料理上手だ。私は食べなくても平気だが、彼女の作る料理は好きだから残さず頂くことにしている。
匂いがだんだん近づいて来る。
姿が見えてきた頃、向こうもこちらに気づいたようだ。
ロッシュが立ち上がって手を振っている。
リシュは座ったまま、一度こちらに向けた顔を、今は伏せている。周囲の大気が、負の感情で澱んでいる。
何か悩んでいるのだろう。
『鷹よ。私が気を付けておくから、安心して手紙を届けなさい』
そう念じ、風に託して後を追わせた。




