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EN~RIN  作者: 不動坊多喜
第一章

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(54)休養④

 それから一か月。

 嬉々として、剣を持っての訓練に復活した日のこと。


 汗を拭いていると、ヴィミが不思議そうな顔で問いかけてきた。

「ロッシュって、そんな色だったっけ」

「色? 何の?」

「肌だよ。日焼けして黒くなるのはよくあるけど、だんだん白くなって、ない? それに、顔も感じが変わってきたように思えるし……」

「ああ。メイクが落ちてきたんだ」


 ガヌーシュの医院にいた間は、診察の度、薄くなった部分の補正をしてもらっていたが、ここに来てからは何もしていない。


 他のメンバーも、「君、こんなにキレイだったんだ」とか、「髪が、生え際だけ銀だよ」とか、驚くやら騒ぐやら。


 そんな中で、ジャイが冷静に聞いた。

「ロッシュは、門を通って来たのだったよね」

「うん。そうだけど、何か?」

「皇太后が執拗に君を狙うのは、その髪のせいだよ」


「そう言えば、やたら髪の色にこだわっていたね。でも、どうしてだろう?」

「門に刻まれた、予言を知っていますか?」

「知ってるよ。

  『いつの日か輝く髪を持つ救世主が現れる』

 ていうのだろ?」

「そう。本当は、

  『いつの日か輝く髪を持つ君がこの門より現れ、悪しき世は正される』

 らしいけど」


「救世主じゃないんだ。門番め、嘘ついたな」

 ロッシュがそう怒ると、ジャイは笑った。

「そこも大切だけれど、今問題にしているのは『輝く髪』だよ」

「それって、王様の髪だよね」

「そう。私もそう信じてきました。でも、今、ロッシュを見て、考えを改めました。予言には、一言も『金』とは書かれていません。そして、ロッシュは輝く『銀』の髪を持っている。皇太后には、その髪が、王を脅かす存在に見えたに違いありません」


「でも、皇太后に出会ったときは、髪の色は黒だったんだ。銀になったのは、城を追い出されてからなの」

「えっ。色が変わったのですか?」

「そう。それから、円が使えるようになったの」

 しばらくジャイは考え込んでいたが、やがて顔を上げた。

「あの門に関係があるかないか、今夜、父に聞いてみましょう。何か分かるかもしれません」



 その夜、夕食の後、門についての話が始まった。


「門は、二百五十年ほど前の大戦の後作られたと聞いている。そして、大戦の原因は、人間が私たち、円使いを酷使したからだと」


 太古の昔、世界が乾燥した時、円使いが生まれ水を供給した。

 そのため、人々は、円使いを神と讃えるようになった。


 ところが、時が過ぎ、気候が安定し、水の心配がなくなると、今度はその力で土木工事の手伝いをするよう求めてきた。

 例えば、橋を作るには大きな木材や石材を切り出し運ぶ必要がある。人間だけでは大変だ。しかし、円使いがいれば、それが簡単にできる。


「だから、神のお力をお貸しください、というわけだ。神様の仕事は民の願いを叶えることだから、頼まれたら引き受けざるを得ない。それで食べさせてもらっているのだしね」


 こうして、辛い作業はすべて、円使いに回って来た。

「でも、君も体験したように、円は使いすぎると衰弱する。ひどい場合は死に至る。けれど、人間には理解できなかったんだね。他人事だから」


 そのため、これ以上は無理だと伝えても、分かってもらえない。

 神ならそれ位できるだろう。人間だというのなら働け。働かない者に食わせる飯はない。そういう人も出てきた。


 徐々に、人と神族は対立するようになり、小人と人魚は神族に味方した。彼らもまた、人間から不当な扱いを受けていたからだ。


 小人は農耕民族なので、水をたくさん必要とした。

 それで、円使いと出会ってからは、彼らに水をもらい、代わりに収穫した作物を提供していた。人間は、常に円使いと一緒にいたので、当然のように自分たちの分も要求した。

 時代が進み、人間は、円使いの力を借りて、井戸を掘ったり水路を作ったりした。それらが完成すると、人間は水を自分たちのものとし、小人に与えることで作物を手に入れた。


 人魚は、特に人間と関係を持たずに暮らしていたが、円使いには、時々病を治してもらうことがあった。それで、貝や魚、海藻などを取って来てくれた。これも、人間は当たり前のように食べてきた。


 そのうち、人間はもらうのが当たり前になり、もらえないと不平を漏らすようになった。

 人と見かけが違うという理由で彼らを差別し、小人は野菜を人間のために作る奴隷、人魚は海産物を人間のために採って来る奴隷、そんな風に考えるようになっていった。


 ある日、道普請の最中に、年老いた円使いが一人、力尽きて倒れた。それを、人間が「起きろ」と蹴飛ばし、引き起こし、無理をさせた。その夜、老人は亡くなった。

 怒った子供は、次の日、父に無理をさせた人間を次々殺してしまった。


「そして、とうとう大戦が始まった。神族は力があるが、瞬発的な物。一方、人間は、弱くても数がある。次々押し寄せる人波に、神族は山の方へ押しやられた。そして、最後の決戦の日、神族の若き王女が戦闘に立つことになった。彼女は、星を滅ぼすほどの力があると言われていた。けれど、その力で人を殺すことを是としなかった。結果、彼女は逃げた。空間を切り裂いて、別の世界へ」

「別の世界、……。まさか、それが、私の故郷?」

 ヨギはゆっくりうなずいた。


「大騒ぎの最中、ターマが現れ、引き裂かれた空間を繋ぎ留め、門を作った。大地と共に切り裂かれた川を補修し、人々を救った。それから、和平交渉が始まり、円使いの力は医療をはじめ本当に困った時だけ頼ることにする等、いろんな取り決めをした」


「その取り決めは、失敗したんですね」

「いや。上手くいっていた。皇太后が現れるまでは。彼女は、門の詩を巧みに利用し、自分の息子を『輝く髪の救世主だ』と言い、王として祀り上げた。その上、何のうらみがあるのか知らないが、円使いと人魚、小人を見つけ次第殺すという法律を作った」


「反対する人は、いなかったのですか」

「なかったね。人間にしてみたら、好都合だろう。それに、皇太后はターマだ。ターマは大戦以来、人間をたくさん助けてくれた、尊敬される存在だ。異を唱える人なんていない」

「ターマは、他のターマは反対しなかったんですか」

「今、世界には、ターマは三人しかいない。フォンと皇太后と、老師と」


「老師は、今、どこにいるのですか?」

 ヨギは、首を横に振った。

「この海に浮かぶ、どこかの島で眠っているとは聞いている。そこがどこかは、誰も知らない。いや、フォンなら知っているかもしれないが」


 アイシャがポツリと言う。

「きっと、老師様はお疲れになったのよ。殺し合いばかり見せられて」


 いったい誰が、人間の身勝手さを助長させたのだろう?



 さらに一か月が過ぎ、カボとシャーンが戻って来た。同時に、フォンも巡回の途中だと言いながら、立ち寄ってくれた。


「では、その者たちは、私たちに味方してくれるというのですか」

 ジャイが、珍しく弾んだ声を出した。

「うん。みんなもっと広い世界を見たいと思ってたって。でも、人魚たちが、世界は恐ろしいって止めるから、諦めてたらしい。それで、一緒に戦う気持ちのある人を集めて、みんなでこちらに来てくれるって。まあ、何人集まるか分からないけど」

「いえ。心強い話です」


 みんなが盛り上がる中、ロッシュは少し冷めていた。というより、フォンが気になって仕方なかった。


 あれから何度か、フォンはこっそり会いに来てくれていた。しかし、それは甘い感情を伴うようなものではなく、ロッシュが言いつけを守っているか見張りに来ているような感じだった。

 毎回、ふっと現れ、すっと消えていく。



 最後に彼が来てくれた時、聞いてみた。

「いつも、どうやってここへ来るの?」と。

「大気に体を溶かして飛んで来るのです」

「溶かす? 体を?」

「ターマとは、自然と一体になることに成功した人。体を溶かして再現することなど容易いのだよ」

「皇太后も、それ、できるの?」

「彼女は、できないと思います。輪が五つ以上でないと無理でしょう」

「良かった。出来たら捕まえられないから、どうしようかと思ったよ」

 そう笑うロッシュに、フォンは暗い表情で尋ねたのだ。


「本当に、皇太后と戦うのですか」

「そのつもりだけど、どうして?」

「皇太后はターマです。戒律で、人を傷つけることが許されていません」

「でも、実際、大勢傷ついてる」

「傷つけているのは、彼女ではありません」

「そうね。彼女の命令で殺し屋がやってるだけだよ。私に対しても、そうだったように」


 フォンの反論が始まる前に、早口でロッシュは怒鳴った。

「円使いは人を攻撃できるのに、ターマは出来ない。円使いは気持ち悪がられて、ターマは尊敬される。円使いは人と愛し合えるのに、ターマは触れることさえできない。本当に変な世界よ、ここは」



 あのときは、ケンカ別れのようになってしまった。それきり彼は来ず、そして、今日だ。どうにも、バツが悪くて近寄りがたい。


 聞きたいことが山ほどあるというのに、だ。


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